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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⓶

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⓶
 
3月11日続き
◇宮殿のようなホテルと、物置のような安宿
 まずは、タクシーの車窓から、かなり高級なホテルである「イスタナ・クアラルンプール」を眺める。「イスタナ」は宮殿の意味。まさに宮殿のような豪華なホテルである。
もちろん眺めるだけで泊まりはしない。泊まるのは、そのすぐ裏にあるお値段5分の1ぐらいの安宿だ。この安宿を選んだ主要な理由は「イスタナ」に近いこと。翌日早朝のタマンネガラのムティアラ・タマンネガラ・ホテルへの送迎バスは、イスタナのロビーから出発するのである。まるで、イスタナに宿泊した金持ち旅行者のような素振りで、何気なくシャトルバスに乗り込むのである。(注=私はムティアラにメールして1カ月ほど前に予約しましたが、通常はイスタナのメインロビーにあるムティアラのオフィスで、前日までに予約すればいいようです。クアラルンプール滞在中に突然思い立って、タマンネガラに行きたいと思っても、何とかなりそうです)。
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 タマンネガラへのバスが出る高級ホテル「イスタナ」のロビー。お値段が高いので泊まれません。

 安ホテルにチェックインし、部屋に荷物を置いて、ホッと一息。しかし、「あまりにもネットで見た部屋と様子が違うぞ」。一階の駐車場に面して、物置のようなスペースが並んでいて、その物置と思ったものこそが、実は客室だったのだ。
ドアを開けてもなお、そこはほぼ物置だった。物置の中にベッドがあり、奥にシャワーが付いているといった感じ。まあ、翌日からのジャングルでの夢のリゾート生活に向けて、1泊体を休めるだけだから、これで十分だ。でも、あのネット上の写真は「詐欺だ。フォト・マジックだ」。一部屋だけ、特別きれいに改装して、その写真をホテル紹介サイトに提供したのではないかと疑われる。
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 物置的な安宿の室内。名誉棄損で訴えられる恐れがあるので名前は明かしません。

しかし、まあいい。そもそも、このホテルには何も期待していないのだから、期待外れも何もないのである。手元には、無事生還したリュックがある。それだけで「素晴らしきかなマレーシア」である。
 
◇夜の街、熱帯のアバンチュール
その後、夜の街へ出かける。クアラルンプールは熱帯の大都会だから、電飾きらめくオープンテラスのバーやレストランが立ち並び、店内からは魅惑的な音楽が流れてくる。妻の目がとどかない旅先で、焼けつくような熱帯のアバンチュールを楽しもうというのか。
しかし、探検隊風のベストを着た昆虫記者は、アバンチュールには似つかわしくない姿だ。ではなぜ、夜の街へ向かうのか。目指すは観光名所のペトロナスツインタワーだ。宵闇の中で見上げると、まるでSF映画に出てくる近未来都市である。
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 ツインタワーの前はカップルの記念撮影ポイント。昆虫記者には縁のない話です。

タワーの下には巨大ショッピングセンター、スリアKLCC(クアラルンプール・シティー・センター)がある。これがまたすごい。時々買い物に行く錦糸町のショッピングセンターよりすごい。
普通はここで、マレーシア土産のお菓子でも調達するのだろうが、昆虫記者が一直線に向かったのは、家電量販店。そこで買ったのはスパイラル型の蛍光灯電球だ。
日本とマレーシアでは電圧が100ボルトと220ボルトという違いがある。だから、マレーシアのジャングルのホテルで、夜に虫を呼び寄せるためにベランダに設置する電球は、マレーシア製がいいのだ。
これまでは、わざわざ日本から電球を持ち込んでいたのだが、日本の電球を使うには、変圧器(トランス)が必要になる。このトランスがともかく重いのだ。長い時間使うと、過熱して作動停止したりする面倒なものでもある。マレーシアと日本では、電球ソケットの形状も若干違うらしいのだが、日本の物を使っても、問題はなかった。つまり、延長コードやソケットなどは日本から持ち込んだものがそのまま使えて(BFタイプ変換プラグは必要)、電球だけはマレーシア製を使うという裏技が使えるのだ(真似する場合は自己責任でお願いします)。なんと素晴らしい天才的発想なのか。(それくらい誰でも考え付くだろうが、普通はそんなことをする必要性がないだけという説もある)。
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 タワーの下には巨大ショッピングセンター。

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 スーパーも入っているので、食料調達にも便利。

すべて計画通りだ。うまくいきすぎて怖いぐらいだ。もちろん、異国の地であるから、小さなトラブルは幾つかあった。例えば信号機が壊れていて、いつまでも道路を渡れなかったとか、信号が機能している場所では、信号無視の車にひかれそうになったとか、夕食に入ったマクドナルドでは、セットメニューを頼んだのに店員がポテトを付け忘れたとか。それでもKLセントラル駅での大恩があるから、すべて笑って許せる。でも、ポテトがなかった時は、多少笑顔が引きつっていたと思う。
 
◇安宿の混乱の夜明け
安宿の夜明け。午前7時、まだ外は薄暗い。身支度を整え、チェックアウトのためフロントへ向かう。しかし、フロントには誰もいない。もう一組若い西洋人カップルが待っている。料金は支払ってあるから、普通なら鍵だけフロントに置いて立ち去ってもいいだろう。しかし、この安宿は客に100リンギものディポジットを要求していたのである。宿代の倍近い額だ。これを取り返さずに、立ち去ることはできない。
ムティアラへの送迎バスの集合時間の午前7時半が迫ってくる。乗り遅れたらどうしてくれるんだ。もしかしたら、これこそがこのホテルの戦略か。時間に追われる客が、ディポジットを取り返すことをあきらめて、泣く泣く去っていくのを、どこかの監視カメラで見守って、ほくそ笑んでいるのか。フロントのドアを蹴破って、ディポジット分の現金を強奪してやろうかと思う。
業を煮やした西洋人カップルの片割れの男が、フロント近くに書いてあった番号に電話する。しかし、応答がないようだ。男は外へ飛び出していく。警備員かだれかホテル関係者を探しに行ったのだろう。
そうこうしているうちに、ホテル関係者らしきマレー人が現れた。もうあまり時間がない。「ディポジット、ディポジット」と叫ぶ昆虫記者。眠そうな顔で、のんびりとフロントのドアを開け、緩慢な動作でデスクから現金と確認書類を取り出すマレー人。昆虫記者は、100リンギ札をひったくるようにつかむと、高級ホテル「イスタナ」に向かって走り出したのであった。KLセントラル駅でマレーシアから受けた10万円分の恩義は、この時点で1万円分ほど目減りしていた。
 
◇旅の美しき道連れ
イスタナのロビー(メインロビーの1階下のローアー・ロビー)には、既にムティアラ関係者が待っていた。この日の送迎バスの利用者は、中国系米国人の父親と息子、娘の3人連れと昆虫記者の計4人。しかし、この中国系の父親が、8時の乗車直前になって、「部屋に忘れ物をしたかもしれない。ラストチェック」とか言って、ホテル内に戻っていったのだ。ホテル内に戻ったということは、この高級ホテルに泊まっていたのか。それだけでも、腹が立つのに、出発時間を過ぎても戻ってこない。結局定刻を10分ほど過ぎてから、運動靴らしきものを手にして「ソーリー・ソーリー」とか言いながらバスに乗り込んできた。
タマンネガラで過ごす大切な時間を10分削られたのである。本来なら許せないが、汗を垂らして走って戻ってきたから、勘弁してやろう。それに、大福のような顔の父親に似ず、娘さんが可愛いので「ノー・プロブレム」とか言って、作り笑いで大人の余裕を見せておいた。こうした包容力が、いずれ、何らかの形でラッキーな展開をもたらすかもしれないのだ。
そして送迎バスで4時間ほどでテンベリン川沿いのクアラタハンの村に到着。目指すムティアラ・タマンネガラはテンベリン川を挟んで、村の向かい側だ。渡し舟の料金は片道1リンギ=約30円。荒川の矢切の渡しよりずっと短い距離だから安い。南岸の村には小さなホテルがいくつかあり、値段はムティアラの4分の1から2分の1ぐらい。南岸には水上レストランもたくさん並んでいるから、昼食、夕食もかなり安く食べられるだろう。しかし、公園の入り口に位置する北岸のムティアラの方が、圧倒的に便利だ。
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 テンベリン川南岸にはこんな感じの水上レストランが幾つもある。ムティアラから往復2リンギで川を渡って、安く食事をすることもできそうだ。

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 あっという間にムティアラ側へ。

便利さを取るのか、値段を取るのか、普通の旅行なら絶対値段の安さが優先だ。だが、「虫撮りの便は悪いが値段は安い」のと、「虫撮りに便利で値段が高い」のとでは、虫を重視せざるを得ないのが、昆虫記者の悲しい宿命なのである。まあ、ムティアラにしても、一部屋1泊8500円程度なので、例えば家族3人で泊まったとしたら、一人当たり3000円もしないのだから、昆虫記者のように「高い、高い」とギャーギャー騒ぎ立てるのは、経済大国日本の恥である。(注=日本のホテルは大抵1人いくらという設定なので、3人で泊まれば一部屋当たりの料金は掛け算で3倍になります。しかし海外のホテルは一部屋いくらの設定なので、3人で泊まれば、1人当たりの料金は割り算で3分の1になります。海外では多人数で泊まるとお得ということですね。でも日本の旅行会社の海外旅行パッケージを利用するとすべての値段が、人数分の掛け算になるので注意が必要です)。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ③

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3月12日続き
◇猿軍団の襲撃
しかし、ムティアラ・ホテルには、値段の高さよりはるかに大きく、我慢ならない問題が待ち構えていたのであった。それはサルどもだ。ジャングルのサルの中で、最も人懐っこい、つまり一番やっかいなカニクイザルどもである。
人懐っこいサルは、一見可愛らしい。特に子ザルがじゃれあっていたりすると、都会からやってきたご婦人やお子様たちは「まー、なんて可愛い」とお菓子を分けてやったりする。彼女らはまだ、カニクイザルどもの恐ろしさを何も知らないのである。
観光客に慣れた野生のサルは、人を全く恐れなくなり、やがて人から食べ物を奪い取るようになる。日本の観光地でよく見かけるお馴染みの恐怖の風景である。
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 部屋はすべてコテージ風。広々とした敷地内だけでも、ゆっくり虫撮りができそう。

チェックインを済ませ、戸建てのロッジに落ち着いた昆虫記者は最初、サルの存在に気付かなかった。なかなかいい雰囲気のロッジである。涼しい朝夕には、ベランダのテーブルセットで、優雅にコーヒーなど飲みたくなる。
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コテージ内部。居心地は悪くない。

しかし、ベランダがそんな優雅な空間でないことはすぐに明らかになった。恐怖が襲ってきたのは、ベランダの柱に昆虫記者特製バナバトラップを仕掛けようとした時である。今回のバナナトラップは、ペットボトルを半分に切ったものの中に、つぶしたバナナを入れたもの。その甘い匂いで虫を呼び寄せようというのである。柱にトラップのひもを巻き付けようとした段階で、カサカサと落ち葉を踏みしめる音、バタバタと屋根の上を走る音が聞こえ始めた。ここからはもう、恐怖のカウントダウンである。「3、2、1、0」。
目の前に突然サルの軍団が現れた。10匹ほどはいただろう。いや、本当は5匹ほどで、あまりに高速で動き回るので、10匹に見えたのかもしれない。恐れを知らぬサルどもは、昆虫記者が手にする貴重な研究装置であるバナナトラップに飛びかかり、力づくでもぎとっていったのである。怒りに震える昆虫記者は、こぶしを振り上げ、足を踏み鳴らして、連中を威嚇した。弱虫の昆虫記者もやる時はやるのである。相手はたかがサルである。しかし、それでたじろいだのは、子ザルどもだけだった。ボスらしきサルは、逆に歯をむき出して奇声を上げ、必殺サルパンチを繰り出そうとしてくるではないか。これはもう、逃げるしかない。サルの集団に襲われたら、手足をバラバラに引き裂かれ、肉を食いちぎられるに違いない。ヒチコック監督が「ザ・バーズ(鳥)」でなく、「ザ・モンキーズ(猿)」という映画を撮っていたら、きっとこういう残虐シーンがあっただろうと思われる。
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 サルに占拠されたベランダ。

本当はここで逃げてはいけなかったのだ。こういう弱腰の態度が、サルたちを付け上がらせるのだ。最初は恐る恐る人間の食べ物を盗んでいたサルたちだったが、人がサルを怖がることが分かって、次第にずうずうしくなったのだろう。今度ここに来る時には、スタンガンでも持ってきて、サルたちをこらしめてやらねばならない。だが、そんなことをしたら、きっと動物愛護法違反とかで逮捕され、「極悪非道の昆虫記者、無抵抗の子猿を虐待」とか、三面記事で報道されてしまうのだろう。
「それって完全な誤報です。被害者は昆虫記者の方で、正当防衛なんです」。なんて反論しても、昆虫記者などという胡散臭いやつの主張より、「ひどい目に遭いました。泣き叫んでも許してくれませんでした」などというサル側の主張の方が、大衆の圧倒的支持を集めるに違いないのだ。(注=みなさん、タマンネガラのロッジでは、昼間はベランダで飲食しないようにしましょう。どうしても飲食したい人は、サルと一戦交える覚悟が必要です。でも武器なしでサルと戦っても、勝てる見込みはほとんどありません)。

◇宝石の名を持つ蝶をチラ見
動物が苦手な昆虫記者がサルに歓迎されるわけはない。歓迎してくれるのは、虫たちだけでいいのだ。
最初に昆虫記者のムティアラ到着を歓迎してくれた虫は、オオウスバカミキリの仲間。これはデカい。鳥に襲われたのか、痛手を負っており、それゆえに、飛んで逃げることもできずに、昆虫記者と出くわすことになったようだ。オオウスバとしては、「鳥の次はこいつかよ。なんてついてないんだ今日は」なんて思っていたかもしれないが、オオウスバの気持ちなど知ったことではない。
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 やめろ、手を放せ、このバカ野郎、とか悪態をついているに違いない。

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 おい、こら、いい加減にしろ。

そして、蝶もちらほら。
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                  リュウキュウムラサキ

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                  クロタテハモドキ

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                キミスジ系

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               フトアカオビセセリ

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                モリノオナガシジミ

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                フシギノモリノオナガシジミの別名を持つトラフミツオシジミ

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               名前不明の地味なセセリ

何て言っていたら、ドキッとする絶世の美女級の蝶が現れた。宝石の名を持つ蝶、ホウセキシジミタテハだ。
以前キャメロン周辺で見かけたが、久々の再開。タマンネガラでは初対面なので、まずは遠目からあいさつ程度にとどめておこう。
「そ、そ、そんなわけにはいかないでしょ」。これっきり、とわの別れだったらどうするんだ。ここで写真を撮っておかなかったら、一生後悔するぞ。
でも、絶世の美女は、イケメンに程遠い昆虫記者にはつれないもので、すぐに飛び去っていった。
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でも、この後、ホウセキシジミタテハには何度も出会うことになるのである。人生捨てたものではないのである。
 
◇ザ・国立公園
ここで、今回の旅行先であるタマンネガラ国立公園について、少しうんちくを傾けておこう。「タマンネガラ」というのは、国立公園の意味らしい。つまりタマンネガラは、国立公園という名の国立公園。ザ・国立公園なのだ。1930年代に指定されたマレーシアの国立公園第1号であり、その面積は4343平方キロ。東京都の約2倍の広さだ。マレー半島中部に位置し、パハン、クランタン、トレンガヌの3州にまたがる。その名前は日本人の心に響く。音がいいではないか。タマンネー、虫好きには、もう、どうにも、たまんネーと叫びたくなるではないか。
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   ロッジの周りにはイノシシもたくさん出てくるので、怒らせないよう注意したい。
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 世界で最も古い熱帯雨林の一つで、1億3000万年前から、ほとんど姿を変えていないとも言われる。本当はオーストラリア・クインズランド州の熱帯雨林の方が、若干古いらしいが、こういう時、英語の「ワン・オブ・ザの後に最上級」という表現は便利だ。「最も古いものの一つ」という、日本語的にはちょっと違和感のある表現を使えば、ナンバーワンでなくとも、ナンバーワンのように印象付けることが可能なのである。ナンバーワンにならなくてもいい。もともと特別なワン・オブ・ザ・最上級なのである。

ムティアラのホームページによれば公園内に鳥は675種、植物は1万種、ほ乳類も200種いるという。昆虫に至っては15万種が生息しているという、とんでもないところである。
だが、これほど広大で由緒ある国立公園でありながら、日本での知名度はあまり高くない。と言うか、ほとんど誰も知らない。「なぜだ」という疑問がわく。恐らく、一般観光客にとって不快、不便、不都合なことがあるのではないか。たとえば、トラがいるとか。いるのである。かなり重要な生息地らしい。90頭前後はいるという説明もあった。しかし、恐れることはない。東京都の倍の面積の森にトラが90頭いたとしても、そう簡単に出会うことはないはずだ。そしてトラがいるということは、それだけ自然が守られているということではないのか。これは、さして不都合な真実ではない。では、もしかすると、もっと不都合なことが隠されているのか。たとえば、サソリがうじゃうじゃいるとか。いるらしいのである。そして、それこそが、今回のメインターゲットなのだ。「昆虫記者、サソリと対決」。かなり格好いいタイトルではないか。ちまたでは、「昆虫記者は憶病者」といううわさが、まことしやかに囁かれているが、今回の旅は、そんな根も葉もない流言飛語を一掃するための旅でもあるのだ。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ④

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ④
3月12日続き
◇サソリとの遭遇確率100%
そして、待ちに待った夜がやってきた。ジャングルの中だから、都会の歓楽街を彩る夜の蝶はいないが、代わりにもっと魅力的で、素敵な毒針を持った夜の蠍(サソリ)がたくさんいるのである。刺されたら、天にも昇る気分になって、本当に天国に行ってしまうかもしれないのだ。
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      ヤモリが愛を交わす熱い夜がやってきた。

しかし、タマンネガラに来たからには、ご当地名物のサソリに会わずに帰るわけにはいかない。抜け目のない昆虫記者は、ムティアラにチェックインした際に即座に、ジャングル・ナイトウォークの予約を入れていた。タマンネガラの夜の主役はサソリ。あとはナナフシなどの一般人にはどうでもいい昆虫である。動物はイノシシやシカぐらいという地味な顔ぶれであることが多いらしいし、全く動物が見つからないということもよくあるという。
こんな説明をすると「わざわざマレーシアのジャングルに来て、ナイトウォークにまで繰り出して、動物が全然見られないなんて、何のために来たのか分からない。サイテー」という声があちこちから聞こえてきそうだ。
 タマンネガラでのナイトウォークに関する最近のネット上のコメントは、極めて否定的だ。典型的なのは「ほとんど目当ての動物は見られません。虫ばかりです。虫に興味のない人は参加してもあまり意味がないでしょう」というものだ。そのコメントに昆虫記者は興奮する。「何、虫ばかりだと」。そんな素晴らしいナイトウォークなのか。参加者の様々なブログを見てみると、ほぼ確実に出会えるのはサソリである。これまた、ポイントが高い。
 昆虫ではないものの、ムカデ、クモなどと同様に、虫けら扱いされているものの一つであり、社会的には虫けら同然の存在である昆虫記者としては、親近感がわいてくる。「気味悪い虫が多くてゾッとした」などという、ワクワクする素晴らしいコメントの数々も、恐らくは、こうした昆虫でない虫けらのことを言っているだろう。
 とっぷりと日が暮れた午後8時半。ムティアラのフロントに集合したナイトウォーク参加者は…。あれれ、また同じ顔触れだ。送迎バスに乗ってきた中国系米国人の家族3人連れである。この3人に、昆虫記者とガイドを加えた5人で、いざ夜のジャングルに突入。
 次々と登場するのは、予想通りクモやヤスデといった「気味悪い虫」たち。ナナフシも何匹か姿を見せる。
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 ゴキブリを捕食中の巨大なクモ。ガイドはハンツマンスパイダーと呼んでいた。

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 こういうあまり見たくない系の生物が多い。ナイトウォークの評判が良くないのも納得だ。

 昆虫記者は中国系家族3人の後ろを歩いていたのだが、家族3人の最後尾を歩く可愛い娘さんが、色々と気を遣ってくれる。写真を撮りやすいように、場所を開けてくれたり、ライトを照らしてくれたり、足元が危険なところでは注意を促してくれたり。やはり、送迎バス乗車の際に、大人の余裕を見せておいたことが、好印象につながったのだろう。非常にいい気分だ。父親に気付かれないよう、さりげない笑顔で親愛の情を示しておく。

 昆虫は前評判度通り、蛾とか、ナナフシとかが中心。ガイドも中国系家族も、あまり関心を示さず、さっさと通り過ぎるので、じっくり写真を撮る暇はない。昆虫趣味の悲哀である。
 それは、もっと広く、世界中に昆虫愛を伝道していかなければならないということでもある。
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               オオツバメガ

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せっかくの棘ナナフシだぞ。もうちょっと、撮影時間をとってくれ、と言いたいところだが、ガイドはつれない対応だ。

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 ちょっとカッコイイ大型カミキリを見つけた。ミヤマカミキリとキマダラカミキリを合体させたような感じ。

そして、ついにサソリの登場だ。大きなサソリのいる穴は、ガイドが熟知しており、毎夜必ずそこにサソリが姿を見せるようだ。サソリの側は「またあのガイドが来たか、もううんざりだ」という様子で、穴から顔だけ出して、やる気のなさを見せる。そこでガイドが奥の手。細い棒のようなものを使って、巣穴の前をコソコソと突っつく。これを餌の虫の足音、羽音と勘違いして、サソリが一瞬穴から飛び出してくるのだ。毎回のことながら、やっぱり騙されてしまう単純思考のサソリ。それとも、早く観光客を帰らせるために、騙されたふりをして登場するという高等パフォーマンスなのか。何カ所か巣穴を回ってくれるので、観光客がサソリに出会える確率は、ほぼ100%と思われる。
 
◇熱い吐息の夜
 サソリを見つけると、ガイドが「フラッシュライトを消して」と指示する。真っ暗闇になる。何が起きるのか。隣には中国系家族の娘さん。彼女の熱い吐息(妄想です)を首筋に感じ、ドキドキ感が増す。
 そこでガイドが取り出したのは、ブラックライトという秘密兵器だった。最初から怪しい雰囲気のガイドだと思っていたが、やはりブラック、闇社会の人間だったのか。
 ブラックライトが点灯され、ぼんやりとした紫色の光を放つ。紫外線に近い光なので、人間の目にはほとんど見えない。こんな弱い光では、何の役にも立たないではないか、と思うのが素人のあさはかさ。
 そのぼんやりとした光の先に、青白く光り輝くサソリの姿がくっきりと浮かび上がっていたのだ。何なんだ、この劇的な登場のしかたは。
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 穴の中から劇的に登場してくるサソリ。ガイドツアーでのサソリ観察の際はフラッシュは原則禁止。通常の懐中電灯も消す。周囲も黒っぽいので、懐中電灯で照らしたり、フラッシュを光らせたりしても、黒いサソリの姿を鮮明に見ることはできない。ブラックライトで光るサソリをフラッシュなしで撮る際には、シャッタースピードがかなり遅くなるので、ぶれないよう、しっかり構える必要がある。狭い木道を幾つものツアーが通るので、三脚は無理。

 子供の頃の遊びを思い出す。蛍光塗料を塗ったお化けや骸骨のおもちゃを寝室の天井に貼り付けて、電気を消す。お化け屋敷ごっこだ。真っ暗な部屋の中で、お化けたちだけが青白く光っていて、不思議に興奮したものだ。昔の子供たちの遊びは素朴だったなー。

 あのころと同じような興奮が、ジャングルの闇夜の中で展開される。「静かに。動かないで」とガイドが指示する。大きな動物の気配を感じると、サソリはすぐに穴の中に引っ込んでしまうのだ。一度引っ込んだサソリを、ガイドが棒を使って再び穴の外へと誘い出す。
ブラックライトが照らす世界は、ほぼ漆黒の闇。舞台の中で動いているのは、青白く光るサソリだけだ。
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暗闇のジャングル、光るサソリ、そして、昆虫記者の隣からは、中国系の娘さんの興奮した荒い息遣いが伝わってくる。闇夜のドラマである。何が起きてもおかしくない、もうどうなってもいい状況である。
しかし、もちろん何も起きず、サソリは観光客へのサービスに飽きると、素早く穴の中へと消えていってしまった。
ただ、この夜のサソリと妄想の記憶は、長く鮮明に残るのであろう。人生の貴重な1ページとして。なーんて、そんなたいしたことじゃないけど。
でも、やっぱりサソリには心の底までしびれるような魅力がある。サソリの毒はあとで効くのよー。美川憲一が歌う名曲「さそり座の女」の、あの歌詞は、この夜のためにあったのだ。
(ナイトウォークのコースは立派な木道が整備されています。木道の上から生物を観察するので、女性や子供連れでもほとんど危険はありません。安心してご参加下さい。)

森上信夫さんの「虫・むし オンステージ」

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 私の昆虫写真の先生でもある森上信夫さんの新刊「虫・むし オンステージ」が届きました。

 この本を見て、読んで、虫好きの子供たちが激増することを切に願います。スマホでゲームばかりやっていないで、外へ出て虫を探しましょう。体にもいいし、知的好奇心も育ちます。
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 スマホの小さな画面の中ではなくて、大きな自然の中で、自分の足と手と、耳と鼻と目で、すごい虫、芸術的な虫、おもしろい虫を見つけた時の感動を味わってほしいものです。

 女の子なら、「いつだってスター」のきれいな虫から、この世界に入ってきて、昆虫趣味の未来を担ってほしいと思います。
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 この本の中での虫記者の一番のお気に入りは、ギンシャチホコの幼虫の「わらうおしり」です。
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 笑っちゃいますね。でも、本当はイモムシのお尻なんか眺めて面白がっている人間の方が、虫に笑われているのかも。
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 笑われてもいいんです。虫は、見る、撮る、捕まえる、飼う、観察する、標本を作る、なんていう色々な楽しみ方ができます。どんな楽しみ方でも、構わないんです。入口は何であれ、その先に広がる虫の世界は広大です。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑤

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑤
 
◇キャノピーウォークで吊り橋効果に期待
 さあて、今日も晴れ。毎日雨の予報だったけれど、現実は晴れ続き。強力晴れ男パワーで気分は最高。では、気分がいいついでに、タマンネガラ一番の売り、最大のアトラクションとされている長大なキャノピーウォークにでかけるか。
 まずはバイキング形式の朝食をガツガツ食べて、エネルギーを補充する。宿泊料は朝食込みなので、朝食は「ただ」みたいなものだ。朝食をたらふく食べておけば、昼食代を浮かせるし、ひいては夕食も軽く、安いもので済ませることができる。すべては、食べ放題の朝食をどれだけ食べられるかにかかっているのだ。
 たっぷり食べて、腹はパンパン。「もう食えないぞ」というところで、意気揚々とキャノビーを目指す。
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 森には地面があれば、屋根もある。キャノビー(樹冠)とは、森の緑の屋根である。しかし悲しいかな、人間は鳥のように飛ぶことはできない。屋根の上の世界を見ることは難しい。だから、キャノピーウォークがある。ジャングルの数々の巨樹を支柱にして、その間を吊り橋で結んだようなキャノピーウォークは、上から森を見たいという、鳥になりたいという、人間の強い欲望の成せる構造物だ。長さ400メートル以上のキャノピーウォーク。地面からの高さは40メートルもあるという。これはもう期待に胸が膨らむではないか。まるで、豊胸手術をしたかのように、はちきれんばかりに、胸が膨らむ。

ヒルもサソリも毒蛇も、キャノビーまでは上って来られまい。ジャングルの王者ターザンになった気分で、高笑いするのだ。「ワッハッハ、地面を這いつくばる者どもよ、ここまで来られるものなら来てみろ。ざまあみろ」。
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そして、吊り橋効果を利用して、プロポーズしようなんて姑息なことを考える人間も必ずいる。人間の脳は、吊り橋の恐怖を、恋の興奮と勘違いすることがあるらしいのだ。「キャー怖い」と高所恐怖症のふりをする女性と、「高い所なんてへっちゃらさ」と強がる男性がここで結ばれたりするのだ。そんなやつらは、40メートルの高さから突き落としてやりたい。
各地のキャノピー常連の昆虫記者としても、一度ぐらいは吊り橋効果を活用して、美人ツアーガイドさんなどに愛をささやいてみたいと思っているのだが、ガイドはいつも野獣のような男なのだ。吊り橋効果で、こんな野獣に好意を持たれても、あまり嬉しくはない。
 
◇キャノピー閉鎖の衝撃
そんな期待と、野望を胸にキャノピーへ向かう途中、例の中国系米国人家族人が、反対方向からこちらに歩いてくる。すでに森を一歩きしてきたようだ。なんと精力的な家族なのか。華僑が世界を制覇するのも、なるほどとうなずける。
「おはようございます。もうキャノピーへ行かれたのですか」。美しい娘さんの手前、丁寧にあいさつする。すると、父親から衝撃的な答えが返ってきた。「キャノピーは、安全性に問題があるとかで、当分閉鎖のようですよ」。ガガーン。うそだろ。「お父さん、うそ言ってますよね。娘さんに対してよこしまな気持ちを抱いた昆虫記者に懲罰を与えようとして、いじわるしてますよね」。
お父さんはさらに追い打ちをかけてくる。「本当ですよ。行くだけ無駄ですよ」。それでも、キャノピーへ向かおうとする昆虫記者に対し、お父さんは「ウオッチ・ユア・ステップ」と声をかける。ジャングルの道はすべりやすいから、足元に気を付けてとやさしい言葉をかけてくれたのか。いやいや、これは比ゆ的な言い回しではないか。「俺の娘にちょっかい出したらどうなるか分かってるな。人の道を踏み外さないよう気を付けろよ」ということに違いない。背後からの襲撃に注意した方が良さそうだ。
しかし、しばらく進むと、本当に「キャノピーウォーク閉鎖」の注意書きが林道脇に掲示されていた。どうしてくれるんだ、この胸の膨らみを、吊り橋効果への淡い期待を。キャノピーはタマンネガラ最大のアトラクションじゃないのか。何とかしろ。安全に問題があるなら早く直せ。直せないなら、宿泊料を半額にしろ。
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 3月2日は既にキャノピーウォークは閉鎖されていた。分かっていたなら、早く知らせてくれ。せめてチェックインの時には知らせて、衝撃を和らげるべきだろ!。そして、宿泊費を安くするか、サービスを充実させろ!。すいません、口汚くののしってしまいました。

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 人の気配のないキャノピーウォーク施設。入口は鎖で閉ざされ、床下ではコウモリが鳴き、屋根の上には落ち葉が舞っていました。
 最初に載せたキャノピーウォークの写真に人が写っていないのを不審に思った人もいたことでしょう。実は、閉鎖されたことを知りながら、諦めの悪さから、確認しに行ったのでした。

だが、こんなジャングルの真ん中で、不平、不満を叫んでいても、らちが明かない。とりあえず、気持ちを切り替えなければ。そうだ。ブンブンに行こう。ナンバーワンのアトラクションのキャノピーがだめなら、ナンバーツーのブンブンへ行くぞ。
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 途中で見つけたツケオグモの仲間。鳥のフンに擬態しているらしい。周囲の白い粉のようなものは、自ら分泌するのだろうか。

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◇タマンネガラにはブンブンがある
 タマンネガラにはブンブンがいくつもあるという。ブンブン?。えー、もしかして、こんなジャングルの奥地にまで、コンビニのセブンイレブン、通称ブンブンが進出しているのか。それはそれで、すごいことである。どんな野性的な店長がいるのか気になるところである。しかし、それは大いなる誤解だ。
ブンブンとは、動物観察小屋のことらしいのだ。生クリームとイチゴのスイーツなんかは置いてなくて、開放的な窓から熱帯の風とともにハエや蚊が次々に飛び込んでくるジャングルの中の高床式の小屋である。並外れた根性と環境適応能力があれば、宿泊もできるらしい。公園事務所の料金表には、「ブンブン5リンギ」と表示されている。1人1晩たったのリンギ、つまり150円程度で宿泊できるのだ。ムティアラに1泊8500円も払ったのは無駄だった。ムティアラに1泊する金で、ブンブンなら50泊以上できるぞ。
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 一番下の行にブンブンは5リンギと書いてある。

「ブンブン、是非行って下さいね」。タマンネガラの旅への出発前、そう優しく声をかけてくれたのは、昆虫文学少女として知る人ぞ知る新井麻由子ちゃんと、麻由子ママだった。マレーシア虫旅のベテランである2人も「そのうちタマンネガラに行きたい」と言っていた。でも「昆虫記者さん先に行って下さい」と言われた。「ブンブン巡りしてきてくださいね」と言われた。先遣隊、下見と言えば聞こえがいいが、毒見のようなものだ。昆虫記者が無事帰ってきたら、私たちも行きたいということだ。昆虫記者が瀕死の状態になったりしたら、やめようということだ。後続部隊のために、最前線で捨て石になる覚悟で臨めということだ。
 
◇近所の疑似ブンブン
 ブンブン巡りといっても、奥地のブンブンは体力的に無理。ということで、調べてみると、なんと、一番近いブンブン・タハンは、宿からわずか200メートルだ。ここには宿泊設備もないから、本当のブンブンとはとても言えない。例えてみれば、住宅展示場にあるモデルハウスのようなもの。それでも、いかにもジャングルの中で大冒険をしたかのような雰囲気の写真を撮ることができる。「三日三晩、飲まず食わずでジャングルをさまよった末に、ようやくブンブンにたどり着いた」といった大ボラを吹くこともできる。しかし、200メートルではあまりに、ひどい。子供の頃にテレビで観た、やらせばかりの「〇○○探検隊」的ではないか。大人はあの番組をエンターテインメントとして見ていたのだろうが、未来の探検家を夢見て画面にくぎ付けになり最後にがっかりする児童たちのことは考えていたのだろうか。
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 なかなか格好いい疑似ブンブンことブンブン・タハン

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 ブンブン・タハンの観察窓からの眺めはこんな感じ。

 ○○○探検隊のように、麻由子ちゃんを騙すなんてことは、やっぱりできない。
 と言うことで、次に近いところは。タハン川沿いのトレイルを3.1キロの距離にあるブンブン・タビンだ。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑥

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3月13日続き
◇ヌーディストと対面
 手持ちのおおざっぱな地図によると、ブンブン・タビンまでは、テンベリン川の支流であるタハン川沿いの道を3.1キロ。たったのキロの水辺のプロムナードじゃないか。楽勝、楽勝。そして木道を歩き始めて1キロ地点。川遊びができる天然のプール「ルボック・シンポン」(LUBOK SIMPON)への分岐点にたどり着いた。下を覗くと、水着で川に浸かっている人たちが何組か。
 「ちょっと早いが、少し休憩して体を冷やすか」。すぐに休みたがる昆虫記者である。「ビキニ姿の女性もいて、目の保養にもなることだし」。すぐに誘惑に負ける昆虫記者である。
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 いったん木道を外れて、タハン川へと下る。「水辺には蝶もいるはずだ」と言い訳する。
 いた。きれいなのが一匹。と思ったら、蛾だった。トラシャクの仲間で昼間に活動するやつだ。
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 久しぶりに出会った。そんじょそこらの蝶より、ずっときれいな蛾である。これは幸先がいいぞ。ゆっくりとトラシャクに近づきながら、一枚、また一枚と写真を撮っていった。
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 そして、トラシャクまでほんの数十センチまで迫って、会心の一枚を撮り終え、ゆっくりと顔を上げたその時である。

 「おお、ヌーディストだ」。目の前に、燦然と輝く人間の裸体が一つ。トラシャクに気を取られていたので、近くの木陰で仁王立ちになっていたヌーディストが全く目に入っていなかったのだ。

だが、残念なことに、今回出会ったヌーディストは男性が一人だけ。しかし、なかなかに鍛え上げられた肉体だ。だからこそ、大衆の面前に、誇らしげに股間を開陳しているのだろう。この先には水辺に蝶の群れる夢の光景があるのかもしれないが、これ以上男性に近づくのは危険だ。むやみに接近すれば、「お前も脱いでみろ」とか言われる恐れがある。昆虫記者は、脱いでも誇らしげに開陳すべきものは持ち合わせていないのだ。
全裸男性はこうした近寄りがたいオーラを放っていたので、今回はここで前進を断念せざるを得ない。ブンブンへの木道に戻ることにした。
 
◇ブンブン・タビンへの果てしなき道
 あとキロちょっと。こんな感じなら朝飯前じゃないか。って、もう朝飯は終わっているから、昼飯前じゃないか。
 しかし、甘かった。そこから先が、山越え谷越え。まるで上級者向けフィールドアスレチック状態。しかも、誰一人歩いていない。一人ぼっちのフィールドアスレチックは楽しくない。つらいだけである。
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 美しい木道の風景。だが、誰一人歩いていないので、だんだんと不安になってくる。

たかが虫撮りとは言え、ジャングルに入るための装備は、かなり重い。重装備でのフィールドアスレチックは、まるで軍隊の教練である。
まず、生き残るためにどんな装備が必要なのか考えてみよう。大量の水と食料、懐中電灯、虫除け、ヒル除け、雨具、水中歩行用のゴム靴。さらにはサバイバルナイフなどの武器、遭難信号を送るための発煙筒、毒蛇に噛まれた時用のポイズンリムーバー、獲物を仕留めるための吹き矢、虎に襲われた時用のバズーカ砲などなど。とても全部は持っていけない。
そんな重装備では、石川啄木ではないが「そのあまり重きに泣きて、3歩歩まず」絶命してしまうだろう。軽快に歩ける装備と、万が一に備えた重装備の間の、絶妙なバランスを考えなくてはならないのだ。しかし、ジャングルの中で、絶世の美女でしかも独り者のハイカーにであう可能性だって、全くのゼロではない。だから、制汗スプレーとか、脂取り紙とか、整髪料とか、身だしなみを整える小物も必要かもしれない。ファイト一発型の元気ドリンクも、いざと言う時に必要だろう。虫捕りの装備の選別は、葛藤の連続なのである。
そんな夢想にふけっている間にも、道はますます険しくなっていく。水辺のプロムナードなんて、うそっぱちじゃないか。でも、そのうそをついたのは、自分自身なのだから、誰も恨みようがない。
 
◇崩れ落ちる木道
そして「ドドーン」。体重をかけた瞬間、木道がメートル四方ほど崩れ落ちた。その上を歩いていた人間もいっしょに転げ落ちる。
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死んでいてもおかしくない事故だ。少なくとも、足の骨ぐらい折っていてもおかしくないぞ。そして、この道は誰も歩いていない。助けが来る前に、白骨化してしまうかもしれない。高温多湿のジャングルでは、物が朽ちていくスピードは極めて速いのだ。そんな恐怖に震えながら、地面に打ち付けられた足をさすってみる。かすり傷程度しかない。やはり昆虫記者は不死身だということを、改めて確認したのである。
崩れ落ちた部分を調べてみると、木道と言っても、木製ではないようだ。強化プラスチックのような板の下に鉄骨を渡してある構造だ。鉄骨が腐食して、折れてしまったようだ。
気を取り直して、さらにしばらく進むと、木道の上に、大木が倒れ込んでいる。まあ、ジャングルではよくあることだ。だれか一人ぐらい、下敷きになっているかもしれないが、他人のことなど気にしてはいられない。
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木道の上に積もる落ち葉が多くなり、木道が見えないくらいになる。本当に人が通らないんだなーと感慨にふける。すると、本当に木道が見えなくなった。落ち葉に隠れたのではなく、その存在自体がなくなったのである。ここから先は、ただの山道らしい。
 
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◇ゲリラの機銃掃射
さらに山あり、谷ありのジェットコースター風の楽しい趣向を凝らしたコースが続く。木道はないから、木の根が階段代わりだ。もちろんちゃんとロープが垂らされており、崖のような道を、ロープにつかまって上ったり、下ったりできるようになっている。これって、修験道の道場?しかもロープ、切れかかっているし。
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突然「ダダダダダダダ」と機銃掃射を浴びた。ゲリラ組織が裕福な日本人観光客をターゲットにしているのか。「この日本人は例外で、超貧乏だぞー」と叫んでも容赦はしてくれないだろう。銃撃は樹上からだった。ゲリラは木にも登れるのか。黒ずくめの体に赤い帽子。そして、羽がある。羽…。なーんだキツツキだ。
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大型のキツツキが連続して木を叩く音が、機関銃のように聞こえたのだ。しばらくすると、今度はホウホウホウと、テナガザルの声に囲まれる。「柔道段、空手6段の俺に戦いを挑むとはいい度胸だ」とかホラを吹けば、東洋の神秘に弱い外国人は逃げ出すかもしれないが、サルの群れには通じないだろう。たちまち連れ去られて、猿の惑星のように奴隷にされてしまうだろう。
しかし、サルの群れは、昆虫記者が、奴隷にしても全く使い物にならない虚弱体質と見抜いたらしく、あざけりの遠吠えを残して去っていった。
そんな恐怖体験のさなかにも、小さな昆虫に気を配るところが、さすが昆虫記者である。
草の葉の上にはツノゼミ。まあ、ありきたりの形のやつではあったが、それでもちゃんと写真を撮ってやる心の広さを見せつける。
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蝶もタテハ系が少しだけ姿を見せた。
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  フチグロミナミヒョウモン

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 チビイシガケチョウ

さらに何度か、ロープによる健康増進運動を行った後、ついにその時はやってきた。ブンブンにたどり着いたのか?。
残念ながら外れだ。正解は「諦めた」のである。もう飲み水が、半分も残っていない。このまま行軍を続ければ、兵糧が付きて野垂れ死にすることになる。行くも勇気なら、撤退するも勇気である。
「すいません。恰好いいこと言ってしまいました。本当は弱虫でブンブン行けませんでした。ごめんなさい。麻由子ちゃん、許してください」。

東京大学総合研究博物館で珠玉の昆虫標本特別展

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 東京大学総合研究博物館で「珠玉の昆虫標本」特別展が開かれています。7月14日~10月14日と、開催期間が長いので、夏休みを狙った一部の昆虫展のように慌てて見に行く必要はありません。できれは平日(月曜は休館なので注意)に落ち着いて観覧したいですね。まさに珠玉の標本ですから。
 しかも、無料ですよ、無料。これは強調しておかないといけません。ただですよ、ただ。また強調してしまいました。
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 最寄り駅は大江戸線と丸の内線の本郷3丁目。丸の内線なら2番出口ですが、大江戸線の4番出口が最高です。涼しい木陰の小道を、東大の古いレンガの壁沿いにほんのちょっと歩いたらもう懐徳門。この門は東大総合研究博物館のためにあるような門ですから、門を入って右を見れば、博物館入口が、昆虫愛好家を飲み込もうと待ち構えています。
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 懐徳門を入ってすぐ右を見ると、通路の奥に東大総合研究博物館の入口が見えます。こんなに目立たないところにある博物館もめずらしい。

 昆虫記者ごときが、東大総合研究博物館の特別展の紹介などしていいものかという、若干のためらいもありますが、すべては昆虫趣味メジャー化のため。きっと許していただけるものと考えます。なにせ、昆虫と頭に付いてはいますが、記者なので、公開前日の記者内覧会に行けちゃったりもするのです。

 「そんなことはどうでもいいから、内容を教えろ」という怒りの声が、どこからか聞こえてきました。

 まずは、さすが東大という感じの秘宝から。
 これはなんと、今から約200年前の江戸時代の昆虫標本。現存する日本最古の昆虫標本と言われています。かなりボロボロではあるものの、貴重なお宝です。
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 旗本で本草学者でもあった武蔵石寿が製作したもので、各昆虫が、不思議な半球形のガラス容器に収められています。

 この日本最古の昆虫標本が発見された経緯がまた、すごい。ガロアムシの発見で有名な仏外交官のガロア氏が、神田の古道具屋で見つけたというのです。今なら、世紀の大発見ということになって、テレビ、新聞で大きく取り上げられ、お宝鑑定団などに持ち込まれたら、とんでもない高値が付くことでしょう。

 ガロア氏は日本で採集したものの多くの本国に持ち帰っていますが、これは日本にとって貴重な宝物になるに違いないと考え日本の施設に寄贈しようと決めたそうです。最終的には昆虫学者で東京帝大農学部教授の佐々木忠次郎氏に寄贈され、東大のコレクションとなっています。
 こんなすごいものを見つけてしまうとは、そしてそれを日本に残してくれるとは、さすがガロアさん。尊敬します。
 日本最古の江戸時代の昆虫標本が、フランスに持ち帰られたら、今頃はパリの自然史博物館あたりの収蔵物になっていたかもしれないのです。

 この標本の中にあるゴミアシナガサシガメは、当時は普通種だったようですが、その後絶滅したと思われていた時期もあったほど、珍しい虫。
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 今でも超珍品扱いです。昔は汲み取り式のトイレが多く、そこにわく蛆虫などを餌に繁栄していたらしく、トイレの近代化とともに、激減したようです。

 ミドリゲンセイはツチハンミョウ科の毒虫で欧州南部や中央アジアにいる緑色に輝くきれいな虫。毒薬、催淫薬として使われた歴史があり、江戸時代には薬の材料として日本に輸入されていたようです。
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 すりつぶすと強力な毒薬「斑猫の粉」となり、暗殺に使われた歴史があります。時代劇にもしばしば登場しますね。
 全く別のハンミョウ科で毒を持たないナミハンミョウの標本が、ミドリゲンセイと隣り合っています。これは、斑猫という名や、その輝きからナミハンミョウもミドリゲンセイと同様の種と思われ、毒薬の材料になると誤解されていたことを暗示しています。まさに歴史ですね。

 クロアゲハ、アオスジアゲハ、セミの幼虫(冬虫夏草のようなものが付いています)、タガメ、ギンヤンマが並んでいます。今や全国的に絶滅が危惧されるタガメも、かつてはどこにでもいたのでしょう。
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  面白いのは、ギンヤンマ羽にきれいな模様が描かれていること。江戸時代にはこんな遊びがあったのでしょうか。色々と興味をかきたてられますね。
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 昭和初期の標本の中には、東京で採集されたベッコウトンボとか、今の東京・代々木公園あたりの草原で採集されたオオウラギンヒョウモンとかもあって、びっくりします。
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 昔は東京で普通に見られた虫が、いつの間にか絶滅危惧種になっていたということでしょうか。

 国内有数の収集家、江田茂氏のコレクションは見事です。
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 同氏のコレクションの大半は兵庫県の博物館が所蔵していますが、晩年まで手放さなかったえりすぐりのコレクションが東大の収蔵品となっています。

 今回展示されたブータンシボリアゲハは、2011年に日本・ブータン共同調査隊によって約80年ぶりに再発見されたもの。調査隊が作成した標本が、のちにブータン国王から日本に贈呈されました。
 そして、この一匹は、今回の特別展の企画・総指揮に当たった矢後勝也助教授(理学博士)自身が採集したもので、世界的にも極めて貴重な標本です。
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 2012年、初めて公開された当時に撮影したものです。

 矢後氏が採集したということで、説明する矢後氏も、言葉に熱がこもります。
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 NHKの取材に応じる矢後氏です。矢後さんは、虫記者の友人の昆虫文学少女、新井麻由子ちゃんが頼りにしている先生でもあります。
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 蝶の幼生期研究の大家である五十嵐邁氏の標本では、世界最大の蝶、アレクサンドラ・トリバネアゲハが異彩を放っています。中央にある蛹の標本は、日本ではこれ一体だけしかないそうです。
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 五十嵐氏の最も有名な功績は、珍蝶テングアゲハの幼生期の生態を解明したことです。インドのダージリンでの調査で、幼虫の食樹がキャンベリーモクレンであることを突き止めた際に、当時の日本蝶類学会会長の白水隆氏に打った電報が、採集したテングアゲハの標本とともに展示されています。
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 最初のメスのテングアゲハを捕えた網に記された文字からは、「やったぞー」という興奮が伝わってきますね。こういう、昆虫採集、研究の生々しい歴史が見られるというのも、今回の特別展の特徴と言えるでしょう。
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 五十嵐氏の標本としては、地味な感じながら、非常に貴重なのがオナシカラスアゲハです。
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 矢後氏によれば、右端のメスは日本にはこれ1体しかなく、高級スポーツカーのフェラーリが買えるくらいの値が付いてもおかしくないとのことです。
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 この地味な蝶が、フェラーリと交換できるほどの価値があるとは。

 展示室の中央につるされた裏表とも透明の標本箱は、表と裏を見比べて模様の違いを楽しめるようになっています。

 フクロウチョウの仲間なんて、表は超地味で、裏の目玉模様こそが見どころですね。
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  ミイロタテハは表も裏もきれいです。
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 「こういう展示で虫に囲まれる。そこから知的好奇心とかが生まれてくればいい」と矢後さんは言います。
 そして好奇心が生まれたら、次は実際に生きた虫を身近で探すという段階ですね。

 東大総合研究博物館のいいところは、周辺で虫探しができるという、都会としてはかなり恵まれた環境です。しかも東大のキャンパス内ですから、お子様の教育にとって悪いはずがありません。
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 昆虫展を見て、ついでに自然の中の生きた虫も見つけちゃう、それも東大の中でなんて、なんと素晴らしい体験でしょうか。「僕、私、将来は絶対に東大に入って、虫博士になる」なんて言い出すお子様もいるかもしれませんね。

 三四郎池の周辺など、緑が多く、虫探しの環境としても、お勧めです。
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 まずはコフキコガネ
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セアカツノカメムシです
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ミンミンゼミ
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 なんと、こんなところで、ひさびさにハサミツノカメムシにも出会いました。
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 ベニモンアオリンガの無紋型だと思います。
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 ウスヅマクチバだと思います。地味ながらもおしゃれな模様です。
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そして、美麗なスジベニコケガ。まさか東大で出会えるなんて。なかなかやるぞ、東大。
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 しかし、虫記者が散策を始めたのは、既に夕方。やぶ蚊の群れに襲われながら、三四郎池周辺で虫探しです。ボコボコに食われてしまいました。半袖で、虫よけスプレーもしていなかったので当然の結果ですね。夏の夕暮れでは蚊の天国。献血しまくりで貧血になりそうです。
 
 昆虫展を見た後で、虫探しをする際には、必ず長袖にして、虫除けスプレーをかけましょう。

 今や東大も外国人にとっての観光名所の一つになっているようで、観光バスから、中国人観光客などが、ドッと吐き出されている場面に遭遇するかもしれません。
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 赤門を入ってすぐ左には、土産物屋まであります。
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 土産物屋のすぐ先には、観光客をもてなすために作られたと思われる素敵なカフェテリアもあります。
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 昆虫展を見て、虫探しをして、カフェテリアでくつろいで。観光地としても丸一日楽しめそうな東大です。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑦

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑦
3月13日続き
◇船で行けるブンブン・ヨン
ブンブン・タビンの夢破れ、トボトボとロッジへの道を戻る。このままではただの負け犬だ。キャノピーにも行けず、ブンブンにも行けず。
その時ひらめいたのである。たしか、船で近くまで行けるブンブンがあったはずだ。その名はブンブン・ヨン。ヨンまでは3.キロの表示だが、近くまで船で行って、また船で戻ってくれば、あっという間の楽ちん旅だ。どうやって行ったかは、麻由子ちゃんには、適当にごまかしておけばいい。若干後ろめたい気分もあるが、こういう要領の良さもなければ、世の中を渡ってはいけない。
 ホテルのフロントの前方にある船着き場からボートに乗って、わずか20分ほど。ヨンまで最短距離の船着き場(と言っても単に木々が切り払われた泥の広場)に到着。
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 こんなボートで、国立公園内のあちこちに行けます。わざわざ、苦しい思いをして、蒸し暑いジャングルを歩かなくてもいいんです。でも、歩かないと虫撮りのチャンスが減ります。たいていの人は、虫なんかに興味はないので、船で移動します。ちなみに、写真の船に乗っているのは、例の中国系米国人の家族3人です。テンベリン川の上流に向かっているので、先住民の村の観光に行くのだと思われます。

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 ホテル対岸の水上レストランです。暑い昼時は、こういうところで涼しく過ごしたいものですね。

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 でも、昆虫記者が船で送り届けられたところは、こんな何もないジャングルの入口。全然涼しそうではありません。

フッフッフ、今度こそ本当に楽勝だ。事前に得ていた知識では、上陸地点から15分ほど歩けば、ブンブン・ヨンにたどり着けるはずだ。山を制覇し(途中で諦めました)、川を攻略し(船に乗せてもらうだけです)、ブンブンを攻め落とす(徒歩15分です)。これこそがタマンネガラのタマンネー男だ。
一応船頭さんに聞いてみる。「ここからヨンまでどのくらいですか」。すると意外なことに答えは「わしゃ、知らない。お前、地図とか持ってないのか」。
「えーっ、本当に知らないんですか。普通知ってるんじゃないですか。ここをこう行って、あそこをこう曲がって、こんな目印があってとか、至れり尽くせりで教えてくれるものじゃないんですか」。
なんだか不安になってきた。でも1時間あれば、ヨンまで行って、戻ってこられるだろう。船頭に1時間待っていてくれと頼んで、目の前の崖を上り始める。途中いくつか横道があった。しかしヨンまでは、脇道にそれずに、真っすぐに進めばいいはずだ。さらに分かれ道。標識がある。しかし、行き先が書かれた板は、地面に転がっていて用をなさない。
おいおい、スリルと冒険を味わわせるため、わざとやっているのか。
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 分岐点の標識(の名残)。表示板は地面に落ちていた。

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 標識の近くにいたメタリックグリーンのハンミョウ。「道教え」の別名もありますね。「だったら、ちゃんと道を教えろ!」と怒鳴りたくなります。

◇魔女のたくらみ
 そういえば、事前にタマンネガラについて調べた際には、「道に迷って死ぬような思いをした」といった旅行記がたくさん見つかった。わざと、道を分かりにくくしているのではないかと、勘ぐりたくなる。わざと迷わせ、お菓子のお家にたどり着かせ、太らせてから食ってやろうという魔女のたくらみだろうか。
 いやいや、もっと現実的な策略が隠されているのではないか。迷わせて、死ぬような思いをさせて、それを旅行者がブログなどに書けば、世界中に噂が広まって、やっぱりタマンネガラのトレッキングにはガイドが不可欠という結論になって。そうなれば、ガイドが潤い、地元経済が潤うというわけだ。
 多くの観光案内には、「少し遠くへトレッキングに出かける場合は、必ず地元のガイドを雇うように」と書いてある。「それが、地元のためになる」とも書いてある。自分一人で歩いていいのは、ホテル周辺、4時間以内で歩ける範囲だ。それより遠くのトレイルは、ワイルドライフ・デパートメント(野生生物局)によって、ガイドなしで行くことが禁じられているという。違法行為になってしまうらしい。
 もちろん、実際には、魔女のたくらみも、現実的な策略も何もないのである。恐らく単に資金難で、トレッキングコースの管理が不十分というだけのことだ。
 しかし、この道で本当に正解なのか。ほらまた、Y字路、運命の分かれ道にきたぞ。今度はどちらも同じ程度に整備され、同じ程度に荒れている。さっきまでは、地面を這うホースのようなものが、きっと正規ルートを示しているのだと思っていた。そのホースをたどるなら、右へ行くことになる。しかし、右の道には、行く手を遮るように細い枝が一本、木と木の間に差し渡してある。これは、進入禁止の意味なのか。それともわななのか。
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 運命の分かれ道。これまでたどってきたホースは右の道へ向かっています。でも、右の道には、細い枝が一本、進入禁止サインのように差し渡してあります。

 さんざん迷った挙句、左の道を選択する。すると、何らかの建造物のようなものが、木々の間に見えた。しかし、近づいてみると、それは倒れた巨木の根であった。その根の脇には、比較的新しい感じのゾウの糞。「き、き、危険だ。こっちにはゾウがいるぞ」。ゾウで思い出したが、このジャングルには虎もいる。もう戻った方がいいのではないか。しかし、ここで断念したら、不運でキャノピーに行けず、根性なしでブンブン・タビンにも行けず、臆病者でブンブン・ヨンにすら行けなかった虫撮り仲間の恥さらしになってしまう。
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 倒れた巨木の根の近くには、ゾウの落とし物と思われるかたまりが。

 あと一歩だけ前へ進もう。歩き続ける限り旅に終わりはない。そんな歌詞もあったではないか。すると、10メートルほど先に。あった。ブンブン・ヨンだ。
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 これがブンブン・ヨンです。ここに泊まる人って、なかなか勇気がありますね。尊敬してしまいます。でも、自分が泊まるのは嫌です。家族で泊まったりしたら、離婚の原因になりそうですね。

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 ヨン周辺の素敵なカメムシたちです。

◇ブンブンブン、ハチが飛ぶ
 なるほど。さすがは一泊150円の格安宿。というか、これは廃屋でしょ。もちろん、水道、電気などの公共インフラは何もない。木製の2段ベッドが数組あるが、傾いていて壊れる寸前という状況。壁には大きな裂け目があり、寄りかかったら崩れ落ちるだろう。
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 昆虫記者は腰痛持ちなので、こういう固いベッドでは眠れません。

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しかし、目を引くものもあった。「オオッ」。ポットン式トイレの壁に何やら、ザクロの実のような美しい形状のオブジェが幾つも設置されているではないか。こんなジャングルの中に芸術を持ち込むとは、やるじゃないかブンブン。
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 なかなに芸術的なオブジェですね。トイレに飾るのはもったいない。しかしどうも、人間が作ったとは思えない怪しさがただよっています。

 しかし、よく見るとそれは、土でできていて、人間以外の生物によって作成されたもののようだ。作者は恐らく…。ハチか。中に蜂がいっぱい住んでいるのか。恐ろしくて、確かめるわけにもいかない。すると、ブオーン、ブオーン。青い羽を持った巨大なハチが飛んできた。部屋を見回せば、あるある。姿、形もさまざまな見事なハチの巣。うそだろー。部屋中、ハチの巣だらけだ。
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 わがもの顔に振る舞う大きなハチ。どうやらここは人間のテリトリーではないようです。

 「ブンブンブン、ハチが飛ぶ」。なるほど、だからブンブンなのか。ハチたちの楽し気な羽音に囲まれて、動物観察用デッキに出てみる。デッキの下は見晴らしのいい窪地になっている。動物は何もいなかったが、湿った地面には、動物たちの足跡がたくさん刻まれていた。きっと、夜には動物たちでにぎわうのだろう。でも、ここで一夜を過ごそうなどとは思わない。どう見ても、ここは緊急時の避難小屋でしかない。文明人が安楽に過ごす場所ではない。ドアはギシギシ音を立てるばかりで、きちんと閉まりはしない。森の熊さんとか、虎さんとかが、突然訪ねてきても、丁重にお帰り願うこともできないではないか。
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 ぬかるみには動物の足跡がいっぱい。

しかし、公園事務所にちゃんと値段が明記されているから、どうしてもここに泊まりたいという人がいるということだ。金を払ってまで、こんなところに宿泊しようなどと考える者の目的は、一体何なのか。肝試しなのか。
こんなブンブンに泊まるのは、きっと夜行性の猛獣が大好きな変わり者なのだ。猛獣に食われても悔いがないどころか、むしろ、死ぬときは猛獣の餌になりたいと願うような、猛獣愛護主義者の鑑のような者なのだ。そんな冒険は無鉄砲な若者の特権であり、中高年は無理をしてはいけないと、お医者さんもおっしゃっている。
猛獣もまた、若者の柔らかい肉にありつければ嬉しいだろう。加齢臭のする中高年の肉なんて食べたくはないはずだ。
「臆病者!大和魂はないのか」などと非難されても、昆虫記者は全く構わないのだ。日本を代表する美しい虫の「ヤマトタマムシ」は好きだが、「ヤマトダマシイ」はどうでもいいのだ。
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 本当に姿かたちも様々な、ハチの巣がたくさんあります。さすがブンブン。宿泊施設ではなく、ハチの巣博物館と思えばいいでしょう。

 「とりあえずブンブンには行った。それで十分だ。さあ、帰ろう。ボートが待っている」。すぐさま踵を返し、帰途につく。
 そして、ボートがあるはずの広場に着いた。しかし、ボートはない。見捨てられてしまったのか。「1時間したら戻るから待っててね」と、とびきりの笑顔で頼んだのに、裏切られた。もう夕方。間もなく日が暮れる。置き去りにされたら、あの恐怖のブンブン・ヨンで一夜を明かす以外に選択肢はないのだ。
 すると、遠くから、ブィーンというエンジン音。船頭は少し離れた木陰に船をとめていたのだった。助かった。「マレー人は本当に信頼できる人たちです。疑ってすいませんでした」。

東京都心、夏の公園虫散歩(水元公園)

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東京都心、夏の公園虫散歩(水元公園)

 今年の夏は暑いですね。東京都心の公園虫散歩も真夏は命がけという時代になってきました。どうせなら、水辺の公園に行きたいですね。水を見ていると気分だけでも涼しくなります。でも、本当に気分だけ。熱中症と熱虫症の合併症は、本当に命にかかわります。皆様も、くれぐれも健康にはお気をつけください。

 せめて水辺ということで、まずはトンボです。ビュンビュン飛び回るギンヤンマなんかは、昆虫記者の手におえないので、地味にイトトンボを追いかけます。

 たぶんアオモンイトトンボのカップルです。
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 尾の先の青い紋の位置を確認しないと、アジアイトトンボとの区別がつきません。面倒なやつらです

 トンボ撮りの楽しさの一つは、交尾姿が愛らしく、かつ芸術的という点ですね。交尾する雄雌を真横から見ると、ハートマークのように見えるんです。完璧なハートの造形を探し回るという人もいます。なかなかいい趣味ですね。

 こちらはクロイトトンボのカップル。オスとメスで全然違うトンボに見えます。メスはほかのイトトンボと紛らわしいですが、こうして交尾してくれていると、同定するのが楽で助かります。同じ種類同士でしか交尾しない(本人に確かめたわけではないので、断言はできませんが)という強い貞操観念のおかげです。
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 クロイトトンボのオスは、カワトンボと同じように、成熟すると胸部に白い粉をまとうようになります。おしろいを塗ったようなのが、男の象徴なんですね。
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 ユスリカを捕まえたクロイトトンボのオス。蚊を退治するのも、トンボの重要な役目です。
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 これはたぶん、オオイトトンボというやつです。水元公園では正門近くの蓮池に多い種類です。
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 これは不明なイトトンボ。何かの未成熟な状態かな。
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 水元公園で一番多い大型のトンボは、このウチワヤンマです。
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 ウチワヤンマが交尾すると、お尻の先のウチワの部分が、渦巻きのように見えて、何が何だか分からないグチャグチャの絡み合いになってしまいます。
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 羽の一部が赤いのでたぶんネキトンボ。
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 コシアキトンボもシンプルで美しいですね。
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 涼し気な水辺の風景
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 その平和そのものの、水辺の風景の中でね、ネッシーのような怪物がうごめいていました。
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 見慣れない生き物ですね。ヒシの葉をバクバクと食べています。南米原産のヌートリアだと思われます。毛皮をとるために移入されたものが、野生化しているそうです。巨大化したドブネズミのようで、好感度は低いですが、実はかわいそうな境遇の生き物なんですね。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑧

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑧
3月13日続き

◇夜のサソリ探し単独行
 夕食後のロッジ。既に日は落ちている。ベランダには、いつものように虫をおびき寄せるライトトラップが設置されている。しかし、虫を待っているだけでは、時間が無駄になる。こっちから会いに出かけて行かなければならないのだ。
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 たぶんネブトクワガタの仲間の♂♀。ライトトラップに来たのは、こういう小さい虫ばかりだった。

 そこで昆虫記者がスーツケースの中から取り出したのは、通常のヘッドライトと、ブラックライトだ。夜のサソリ探し単独行に備えて、ネット通販でブラックライトを調達していたのだ。なんと用意周到な男なのか。
 ガイド付きのナイトウォークは一度参加すれば、それで十分。やり方が分かれば、2回目以降は自分で勝手に夜に歩けば、それで立派なナイトウォークだ。しかも無料。
 前日に歩いたナイトウォークのコースは、大混雑だった。さまざまな業者のツアーが入り乱れ、木道上ですれ違うのも大変だった。どうせ行くなら、前日とは違う、静かなコースを歩きたい。
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 ハゴロモの仲間とアワフキの仲間。

 しかし、単独行動でサソリを見つけることなどできるのだろうか。それこそが、今回の旅の主目的なのだが、ハードルはかなり高そうだ。大きな穴を住処とする大物のサソリは、穴の所在を知っていないと、見つけられないだろう。つまりガイドなしでは、困難ということだ。だが、小さなサソリなら、倒木の裂け目などを住処にしているから、行きあたりばったりでもなんとかなるのではないか。それに大物と比べれば、小物の方が圧倒的に数が多いはずだ。
 ということで、今回は小物探しに徹することに。まずはヘッドライトで、木道脇の倒木を探す。倒木を見つけたら、ヘッドライトを消してブラックライトを当てる。まあ、世の中、甘くないから、そんなに簡単には見つからないだろうな。
 なにせ相手は、官憲の目を巧みに逃れてきた悪辣なサソリだし。今まで一度も自力で見つけたことなんかないし。
 しかしなんと、暗闇にブラックライトを照射した瞬間、見えたのである。倒木のあちこちで、青白いハサミがチラチラとうごめいているのが。
 一本の倒木に匹、匹。みなハサミだけ、あるいは上半身だけを倒木の割れ目から覗かせて、獲物を待っている。すると、紫外線を好む蛾が倒木に寄ってきた。その瞬間「ガバッ」。蛾を捕えようと、さそりが隙間から飛び出してきたのだ。
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◇ブラックライトって何?
 ところで「ブラックライトって一体何だ」という疑問がわいてくる。ライトなのにブラック。点灯してみると、全然明るくない。壊れているのかと思ってしまう。実はブラックライトは、紫外線に近い光を出すライトなのだ。紫外線は人の目には見えないから、ほとんど明るくならないのである。何に使うかというと、紫外線硬化樹脂を固めるためとか。もっと身近なものでは、犬や猫のおしっこによる汚れとか、油汚れとか、目に付かない蛍光性の汚れを見つけるのに使うという。
仕組みはよくは分からないが、紫外線を別の波長の可視光線に変えて反射する物質があるらしいのだ。だから、暗闇の中で、ブラックライトを当てると、特定のよごれが光るのだ。一見きれいに見える部屋。明かりを消して真っ暗にしてから、床のじゅうたんにブラックライトを照射する。すると、あちこちに青白く光る斑点が。汚れ一つないように見えた絨毯が、実はよごれまみれだったのだ。よそのお家でこんなことをしたら、嫌がられること請け合いである。出入り禁止になるかもしれないから、実験は自宅だけにした方がよい。
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 ネット通販のAmazonで800円ぐらいで買ったVANSKY製の小型ブラックライト。小さなサソリを探すには、この程度の小さなライトで十分だ。単4電池3本使用。

◇今やサソリ・ツアーの必需品
一体誰が始めたのか、サソリ探しには今やこのブラックライトが欠かせないらしい。サソリはブラックライトを当てると、真っ暗なジャングルの中で青白く光るので見つけやすいのだ。
本当に光るんだなー。まるで夜空の星。さそり座が地上に落ちてきたと思うと、ロマンチックではないか。
「お前ら、ブラックライト浴びて暗闇で光るなんて、インスタ映えでも狙ってるのか」と言いたくなるほどきれいだ。サソリが紫外線で光ることと、放射能に強いということと、何か関係がありそうな気もする。核戦争後の未来の地球は、同じく放射能に強いといわれるゴキブリとともに、サソリが支配する世界になっているかもしれない。

◇蛍狩りと並ぶ人気イベントに?
 蛍狩りと同じように、カップルが愛を確かめ合うイベントとして、サソリ狩りが定着する日も遠くない…なんてことはないだろうが。なにせ、蛍と比べて、サソリのイメージは悪すぎだ。大きなハサミだけでも十分怖いのに、尻尾の先に毒針を持っているなんて、まるで怪獣映画のキャラクター。
「さそり座の女」とか、梶芽衣子さん主演の映画「女囚さそり」シリーズとか、イメージ的には、怖い雌を思い浮かべてしまう。そうよ、私はさそり座の女なんて、言いながら、すり寄ってこられたら、どうしよう。むげに拒絶すると、痛い思いをさせられるかもしれないし。だが、サソリは、皆が思うほど悪役でもないのだ。サソリの毒は、本来は獲物になる虫とかトカゲとかを仕留めるためのものだから、人間を殺すのが目的ではない。何もしない人間にサソリの方から襲いかかってくることはない。気を付けていれば、攻撃されることはない。とか言われても、やっぱり怖いものは怖いのだ。
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 全然動かないので、変だと思っていたら、サソリの脱皮殻だった。

しかし、サソリは意外に敵が多く、イタチとか鳥とかに襲われて簡単に食われてしまうらしい。あの過剰装飾のクジャクなんかも、サソリを平気で食べるらしい。だからサソリは、昼間は穴に隠れて、暗くなってから活動する。実は臆病者なのである。固そうに見える体も、実はたいしたことはなくて、甲虫の甲羅よりも軟弱だという。最強の姿の割には、結構弱っちい。ちょっと残念な生き物である。それに、本物のサソリの雌は、背中に子供を乗せて守ってやったりする、愛情?あふれる母親であったりもするのだ。
 
◇ポイズンリムーバーを忘れたのが命取りに
 しかし、甘く見過ぎてはいけなかったのだ。やつらにも意地があったのだ。昆虫記者ごときに、なめられて、黙っているはずはなかったのである。
木の皮の隙間にいる赤ちゃんサソリをもっとよく見ようと、隙間を指で広げていた時のことだ。
ビリビリ。小指の先に激痛が走った。やられた。サソリに刺された。もうだめだ。昆虫記者の華やかな人生もこれまでだ。誰一人いない夜のジャングルで、激痛にのたうち回って死んでいくのだ。
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 昆虫記者を刺したのはこいつか。通常のフラッシュライトと、ブラックライトのカクテル光線を照射すると、こんな素敵な色合いになる。

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 普通のライトだけだと、こんなに地味なやつだ。

こんな時に限って、毒を吸い出すポイズンリムーバーを持ってきていない。なんてこった。「ポイズンリムーバーを部屋に忘れたのが命取りでしたね。本当に惜しい人を亡くしました。でも本望でしょう。虫撮りの最中に倒れたんですから」。そんな虫撮り仲間の会話が聞こえてくるようだ。やはり、ただほど怖いものはなかった。ガイドもなしに、人っ子一人いない静寂のジャングルに入り込んだのは間違いだったのだ。
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 ジャングルに行く時は、ポイズンリムーバーを忘れずに。これまで一度も使ったことはありませんが、万が一の場合には生死を左右するかもしれません。精神安定剤のつもりで持ち歩いた方がいいでしょう。

出発前に小遣いを渡してくれた際の、妻の捨て台詞が思い出される。「面倒なことを全部私に押し付けて、楽しそうでいいわね、虫撮り旅行なんて。サソリにでも刺されて死んだら本望でしょ」。そうです。本望です。楽しい旅行に行かせてくれてありがとう。もう思い残すことはありません。葬儀は質素でいいです。遺灰はジャングルに撒いて下さい。
しかし、その5分後。痛みはうそのように収まった。なにせ相手はベイビーサソリだ。針の一撃も若干かすった程度だったのだろう。何度死んでもよみがえるのが、昆虫記者なのだ。それにしても許せないのは、昆虫記者に刃を向けたサソリのやつだ。いつの日か、ゲテモノ料理屋で唐揚げにして食ってやる。たとえ、唐揚げにされたとしても、昆虫記者に食われるなら、悔いはないだろう。
でも「見た目からして、あまりおいしそうじゃないなから、やっぱりやめた」と思い直す。何を隠そう、昆虫記者は、食べ物に関しては超保守的で、ゲテモノ料理なんかは大の苦手なのである。
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 いつも頭を地面や壁に押し付けるような変な姿勢で張り付いているおかしな蛾。

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 上から見るとこんな感じ。墜落した飛行機のようです。

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 靴にまとわりつく巨大ヤスデ

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 緑色のセミをつかまえたヤモリ。

東京都心・夏の公園虫散歩(原宿のカブト、ノコギリクワガタ)

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東京都心、真夏の公園虫散歩(原宿のカブト、ノコギリクワガタ)
 原宿と言えば、若者のファッション、文化の流行の最先端をいく街ですね。竹下通りなんて、若者でごった返していて中高年虫記者はとても歩けません。
 でも、真夏にはどうしても原宿に行かねばならないのです。東京都心、それも渋谷区、原宿周辺でないと、なかなかお目にかかれないビッグな虫たちがいるからです。
 男の子にとって、ビッグな虫と言えば、カブトムシ、クワガタムシですね。東京都心で、自然のままのカブトムシや、ノコギリクワガタが比較的容易に、高い確率で見られる場所がここ、原宿周辺なのです。
 昔は夜の原宿駅に、いろいろな虫が飛んできたものです。今はどうなのでしょう。

 原宿周辺と言えば、こんなところや、
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 こんなところに大きな森がありますね。
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 調査に出かけたのは、7月下旬の早朝。車を廃車にした現在、都心に住む虫記者が電車で出かけて、早朝にカブトやノコギリクワガタに出会える場所は、極めて限られているのです。もし、ここ原宿で出会えなければ、今年はもうその姿を目にすることはないかもしれないのです。

 そして…。ついに発見です。カシの木の樹液に立派なカブトムシの♂。胸部に小さな穴が開いているのは、別のカブトやクワガタと勇敢に戦った証拠でしょう。
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 カブトムシの♀は、クヌギの木にいました。
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 まあ、カブトムシは、腐葉土があれば繁殖するので、結構都心でもあちこちにいます。皇居周辺とか、新宿御苑とか、葛西臨海公園とか、水元公園とかでも時々見つかりますね。
 でも、クワガタ、それも大型のノコギリクワガタとなると、大木の朽木があるような、かなり深い森がないと、生きていけません。
 そのノコギリクワガタも…。いました。
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 それも、愛する♀をライバルに奪われないよう腹の下に抱え込み、大きな牙(大顎)を振りかざしている、嫉妬深い♂です。この♂♀カップルの愛と戦いの姿勢こそ、まさにノコギリクワガタの見せ場ですね。

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 もう1匹、ノコギリクワガタの♂の単独さんを見つけました。早く素敵な♀とめぐりあえるといいですね。
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 樹液にはコクワガタの♀や、アオオサムシ、キマワリなどの姿も。
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 朝のセミの大合唱はほとんどがクマゼミでした。時代は変わったものです。10年前には、原宿でクマゼミの声を聞くことなど、ほとんどなかったはずです。温暖化は確実に進行しているようです。
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 ニイニイゼミは、昼になってクマゼミが鳴きやむのを待っているのかもしれません。
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 クモの巣に絡めとられたニイニイゼミ
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 アブラゼミもクマゼミがうるさい朝方は、おとなくしています。
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 そして、セミたちにとって大敵のカラス。怖いですね。
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 エゴノキの実をかじるのは、変顔のエゴ(ウシヅラ)ヒゲナガゾウムシ
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 そうなのです。原宿は若者だけの街ではないのです。虫の街であり、虫好きのための街でもあるのです。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑨

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑨
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◇山登り日和
タマンネガラにはマレー半島最高峰のタハン山(標高2187メートル)がある。本気で山登りする人々は、当然タハン山を目指すのだが、昆虫記者としては、「行きたい人はいけば。私は行きません」というスタンスだ。つらいこと、苦しいことは嫌なのである。
ムティアラからタハン山への往復は、キャンプしながら7日間もかかる苦行だ。山男で7日かかるのなら、昆虫記者ならばその2倍、3倍はかかるだろう。そんなことをしたら、虎の餌食になるかもしれないし、道に迷って野垂れ死にするかもしれない。そういうことは、農耕民族には向いていないのだ。高い山は、遠くから眺めてこそ美しいのだ。富士山に登ったら、あの見事な山容は分からないではないか。
宿の近く(山頂までの距離わずか1・7キロ)の丘のような山、ブキ・テレセクbukit teresek(標高たったの344メートル)から、タハン山を眺めればいいのである。ブキ・テレセクは、高尾山(標高599メートル)と比べても、はるかに低い。
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 ブキ・テレセクの山頂一歩手前の見晴らし台。山頂そのものよりも、広々としていて眺めもいい。

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 ここがブキ・テレセクの頂上。

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 頂上ではしゃぐ、地元マレー人らしきグループ。

もともと、ブキというのはマレー語で、丘の意味である。ちゃんとした山はグヌンと呼ばれているのだ。だからタハン山はグヌン・タハンである。グヌンは頂上を極めなければ気が済まない、山が高ければ高いほど陶酔感に浸れるクライマーズハイの人々に任せておけばいいのだ。昆虫記者は、虫さえいればブキ(丘)でも十分にハイになれる。これを人は虫(チュウ)ハイと呼ぶ。
 
◇三浦雄一郎氏の叱咤
 だが、ブキ・テレセクまでの道のりでも、そこそこ疲れた。もうタマンネガラ滞在も3日目だ。これまでの疲れもたまっているので、山登りならぬ丘登りでもけっこう苦しいのだ。そして表示がいじわるだ。あと1.2キロという表示があってから、かなり歩いたのに、またあと1.2キロの表示が出てきた。いつまでも1.2キロのままなのか。
 「80歳でエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎氏のことを思い出せ」と自らを叱咤するが、あまりにもスケールが違いすぎて、全然励みにならない。
 でもまあ、ブンブン・タビンを目指した時と違って、上ったり下りたりではなく、ただひたすら上るだけだから、疲労感が少ない。せっかく上ったのに、また下るのかという苦痛がないのである。
 だが、昆虫面ではたいして収穫はない。ハーハーゼーゼー言いながら歩いていると、虫は見つからないものなのだ。たまたま目の前に現れたシロオビモンキアゲハとか、ワモンチョウとか、イナズマチョウとかの仲間を撮れたぐらいが、数少ない収穫だった。
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 シロオビモンキアゲハ

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 たぶんルリワモンチョウ。羽を開くときれいなのだが、とまっている時はまず開くことはない。

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 イナズマチョウの仲間

それでも、タマンネガラに来たからには、山登りぐらいしないことには、何のために来たのか分からない。たとえ、一番低い山であっても、登ることに意義があるのだ。途中、閉鎖されたキャノピーウォークを眺める。悔しさがこみあげてくる。

◇ミツバチの襲撃
 そしてついに、丘の頂上を極めた。日露戦争の激戦地203高地を攻め落としたような気分だ。ここを344高地と名付けよう。
 だが、標高344メートルの頂上で待ち構えていたのはロシア軍の銃撃ではなく、ミツバチの襲撃だった。ブンブンとうるさい。昆虫記者の甘美な汗の香りとか、花のような魅力に引き付けられるのも分からないではないが、刺されたら痛いではないか。いったいどこに巣があるのだろう。頂上で記念撮影をしている人々に次々に襲いかかる。早く帰れと言っているかのようだ。せっかくたどり着いたのに。ゆっくり休憩したいのに。
 虫捕り網を持っていたら、ハチどもを全部捕まえて、佃煮にしてやるのに。結局ハチに追い立てられて、すぐに山を下りることに。また、ハーハーゼーゼーである。これだから、山登りは嫌なのだ。
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 この、縦笛のような変な造形物も、小さなミツバチの巣だという。

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 出入口付近をよく見ると、小さなハチがいる。

 
◇社会性昆虫、シロアリの恐怖
そういえば、山登りの途中、シロアリの大群もいた。恐らくコウグンシロアリの仲間だ。黒いけれど、シロアリなのだ。黒い白アリなので、黒白アリということになる。
木の中に住んで、昼間は出歩かない種類は白っぽいのだが、昼間から行軍しているコウグンシロアリは、太陽光によるダメージを回避するため、メラニン色素があって黒っぽいのだという。地衣類(苔など)を食べるらしい。
こういう小さな生き物がびっしりいるというのは、なぜか恐怖感を引き起こす。人間の原初的な感情に基づくものだろう。きっと、やつらに襲われて、もだえ苦しんで死んでいった祖先がいたのだろう。アー嫌だ嫌だ。隊列を踏みにじってやりたい。しかし、そんなことをしたら、反撃されるに決まっている。体中にまとわりつくシロアリ。そんなことを想像しただけで、鳥肌が立つ。
シロアリもアリと同様に社会性昆虫で、女王を中心に様々な職種の者が集まって、一見立派そうな社会を形成している。コウグンシロアリの場合も、大多数を占める働きシロアリのほかに、兵隊シロアリというのもいて、頭の先に尖った角を付けている。
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 コウグンシロアリの大群。苔のようなものを運んでいるのもいる。

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 兵隊シロアリは、たいてい隊列の外側にいて、隊列の移動を見守っている。

昆虫記者はそもそも、社会性昆虫というものが好きではない。「社会性が欠落している」と非難され、「空気が読めない」となじられてきた身としては、昆虫ごときが社会性を持っていると褒めたたえられることが許せないのだ。
きちんと隊列を組んで、一糸乱れず行進していくアリの行動には腹が立つ。子供のころから、遠足では必ず隊列を外れ、虫を探していた昆虫記者は、いつも厳しい園長先生とか、担任の先生とかに叱られ、まじめな女性班長さんに注意されていた。そんなつらい思い出がよみがえるではないか。虫でありながら、社会性を持つなど、おこがましい。虫なら、虫らしく、羽化したら、単純に生を謳歌し、交尾を終えたらいさぎよく一人で死んでいくべきではないのか。

◇社会性を持ったゴキブリ
 それでもまだ、アリ、ハチまでは、ギリギリ我慢できる。アリとキリギリスとか、ミツバチマーヤとか、童話の世界でもなじみがあるから、嫌悪するほどではない。しかし、シロアリが隊列を組んで進んでいる姿は、忍耐の限度を超えている。こんなやつらに社会性があるなどとは、考えるのもおぞましい。
アリとシロアリは、見た目は似ていても、もともとの種が全然違う。アリは完全変態で、シロアリは不完全変態。しかも、アリはハチ目だが、シロアリはゴキブリ目なのだ。社会性を持ったゴキブリの大集団を好きになれと言われても、無理なのである。シロアリよりは、むしろ、社会性のない普通のゴキブリの方が好感が持てる。熱帯のゴキブリは、写真写りのいいのが色々いる。
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 なかなか、かっこいゴキブリ。熱帯のゴキブリは、こうしてぱっぱの上にいるのが多く、好感が持てる。

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 触覚の模様から見て、たぶん上のゴキブリの幼虫ではないかと思われる。

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◇キノコを生産するシロアリ

初日のナイトウォークでも、シロアリの群れに出会った。恐らくキノコシロアリ系だと思われる。コウグンシロアリより、さらに高度な社会性を持つやつらで、土中の巣内でキノコを栽培して食べるという。そのための菌床となる落ち葉や木片を集めてくる。狩猟、採集中心の縄文時代から、農耕が発達する弥生時代へと、人間と似た進化過程をたどっているように思える。社会に有益なものを何も生産していない昆虫記者と比べれば、尊敬に値するシロアリだという見方も成り立つ。
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 キノコシロアリの隊列。やはり、兵隊シロアリが隊列をガードしている。

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 落ち葉をちぎる働きシロアリ。この落ち葉を巣に持ち込んで菌床にし、食料となるキノコを育てるのだろう。狩猟、採集段階から、農耕へと進化した恐るべき生物だ。
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 キノコシロアリの兵隊シロアリは、働きシロアリと比べ、格段に体格がよく、頭でっかちだ。牙も大きく、噛まれたら相当に痛いだろう。

しかも、シロアリの社会は、アリの女系社会とは一線を画す男女共同参画社会。ますます腹が立つ。王と女王が、巣内で君臨しており、働きシロアリも雄雌混合部隊。今の日本に求められているという働き方改革にピッタリなのだ。立派すぎて、ますます腹が立ってくるではないか。
このキノコシロアリの兵隊シロアリは、異常に頭が大きい。ズームアップすると、クワガタ虫的だ。たかがシロアリとバカにできない。噛まれたら相当に痛いらしい。血が出るほどだという。シロアリなんぞを昆虫に含めたくはなかったのだが、この兵隊シロアリには若干興味を惹かれる。相手が兵隊なら、こちらも戦闘意欲がわくというものだ。
 
◇毒針を持ったアリに注意
もちろん、タマンネガラにはアリもいる。シロアリよりはましなように思えるが、危険性という点においては、アリの方が厄介だ。マレーシアのアリは、毒針を持っているハリアリの仲間も多いらしく、刺されたらかなり痛いのである。アギトアリなどは、働きアリでも体長が1センチほどあり、大顎を180度開いて獲物を待ち構える姿は、ちょっと迫力がある。噛まれても、さされても痛そうで、なるべくなら出会いたくないアリだ。
「でも、まあ、万が一出会ったら、恐ろしげな形相を写真に撮ってやってもいいかな」くらいに思っていたのだが、実は探すまでもなく、足元にいっぱいいたのである。
タマンネガラの人通りの少ない木道は、彼らの絶好の狩場になっているようで、アギトアリがしょっちゅう往来しているのだ。
顎の内側にある毛に獲物が降れると、この顎がすさまじいスピードで閉じる。まさに生まれながらのハンターだ。
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 アギトアリの仲間。いかにも狂暴そうで、穏やかな昆虫記者とは性格が合いそうにない。

◇木の葉裏に巣を作るアリ
アリの巣は全部土の中と思っていると、大間違い。頭上を見上げると、木の葉の裏側に、たくさんの巣がある。腹部が赤いアリが、びっしり。
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 雨の多い熱帯雨林では、地面よりも、樹上に巣を作った方が、大雨・洪水対策としては、理にかなっているのだろう。でも、「頭の上にこんなアリの巣が落ちてきたら」なんて、考えるのも嫌だ。

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑩

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑩
天女の誘惑
 シロアリ、ゴキブリ、アリなどの相手をしているうちに、ようやく、ブキ・テレセクの裾野に。なだらかな木道に入り、ホッと息をつく。すると、見えてくるではないか。虫たちが。まるで、ご褒美のように。
 そしてなんと、目の前、手を伸ばせば簡単に捕まえられる場所に、最大のお目当て、天女のようなビワハゴロモが、まるでやらせ番組のように、とまっているではないか。そうか、へとへとの昆虫記者を励ますべく、ずっとここで待っていてくれたんだな。なんと優しいんだ、お前は。感動で涙が出るぞ。
 ネット上でも、実際にも、いままで見たことのない種類だ。繊細な模様をほどこした美しい羽。すらりと伸びた長い鼻。そしてその鼻の先には、火を灯したような真っ赤な飾り。ここから熱を発するとか、夜になると鼻先が光るとか、信じられていた時代もあったらしいが、それもなるほどと思われる姿だ。鼻先に触れたら、アッチッチッチーとなりそうだ。
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 英語ではランタンバグ、ランタンフライ(日本語に訳すと、ちょうちん虫)などと呼ばれている。だが、そんな低俗で、ちょうちん持ちのような名はお前にはふさわしくない。
◇昆虫記者、ストーカー疑惑
 そうだ、お前はビワハゴロモではなく「VIVA!ハゴロモ(ハゴロモ万歳)」だ。お前こそが、この熱帯のジャングルにふさわしい高貴な虫だ。
 まるで無駄骨だったような山登り。と言っても高さたったの300メートルほど。その難行苦行の末にお前に巡り会えるとは。「う、う、嬉しい」。お前が待っていてくれなかったら、どれほどむなしい山登りだったことだろう。
 「うるさい奴だ。一体なにをそんなに感激しているんだ。うっとうしいし、気味悪い男だ」(ビワハゴロモの気持ちを代弁)。
 「いいよ、いいよ。いい表情だ。そう、そう、そのボーズ。もうちょっと、こっちに視線を向けて、もうちょっと羽を広げて。それ、それ、最高だよ、セクシーだよ」。カシャカシャカシャ。篠山紀信か加納典明(ちょっと古い。アイドルのグラビアに息を荒くした昔がなつかしい)になったつもりで、夢中でシャッターを切る昆虫記者。
 「嫌いだって言ってるのに、カメラのレンズをどんどん接近させてくるし、鼻息は荒いし、ストーカーかよお前」。ビワハゴロモはきっと、そんな気持ちだったのだろう。
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 突然のストーカーの出現におびえ切って、ジリジリと後退するビワハゴロモ。そしてレンズが数センチにまで迫ったところで、ついに昆虫記者の熱い視線に耐え切れなくなり、ブブーンと飛び去っていった。
 いいさ、いいさ。どうせ、君には、この熱い気持ちは通じないんだ。ふと、都会の公園などでよく見掛ける光景が脳裏に浮かんだ。なんか分かるな。野外撮影会とかで、可愛いモデルさんに群がって、必死にシャッターを切り続けるカメラおやじたちの気持ち。
 「天女のようなモデルさん、どうかおじさんたちに優しくしてあげてください」。そして、虫撮りついでに、望遠であなたの写真を撮った私を許してください。
 ついでに、全然VIVAじゃない、普通のハゴロモたちも紹介。

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 何というぞんざいな扱い。ビワハゴロモに対する態度とは大違い。まさに容姿差別だ。

 そして、これはたぶんハゴロモ系の幼虫。毛が伸びすぎた羊のように見える。
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◇ジャングルで軽装の西洋人に文句たらたら

 それにしても西洋人たちの山歩きのスタイルにはあきれてしまう。恐れを知らないやつらだ。毒虫とかヒルとかへの知識は全くないのか。それとも、とてつもない抵抗力を持っているのか。
 こっちは、長そで、長ズボン、防水登山靴で完全武装して、汗みどろになって歩いているのに、彼らは半ズボンにTシャツ。女性に至っては、ノースリーブにホットパンツ、サンダル履きだったりする。ここはジャングルなんだぞ。サンタモニカの海岸じゃない。あんな、涼しそうな恰好で平気なんて、許せない。
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 まあ、女性の場合は見た目も悪くないから許そう。スラリとした長い足は、日本人から見ると、あまりに美しく、見せびらかしたくなるのも分からないではない。しかし、男どもは、同性として許せない。毒虫とか、ヒルとか、毒蛇とかに集団で襲われて、ヒーヒー逃げ惑っている姿を見てみたいものだ。そうでなければ、不公平だろ。割が合わないだろ。怒っていたら、余計に疲れた。やっぱり、山なんて登るもんじゃない。
 もう歩くのやだー。売店でジュースとリンゴを買って、ロッジへ向かう。今日の午後はのんびりするぞ。しかし、あのロッジ周辺は特に危険地帯なのだ。サルの群れが待ち構えている。
 案の定、家族連れの西洋人観光客が、サルの群れに大喜びして写真を撮っている。サルは、何か食べ物をくれるのではないかと、どんどん数を増やしていく。あそこを通り抜けなけばロッジに戻れない。大柄のサルが寄ってくる。売店でくれるレジ袋はオレンジ色。やつらはそれを知っているのだ。中に食べ物が入っていることも知っている。足を振り上げて、サルを追い払う。
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 西洋人たちの横を通る。子ザルが可愛いとか何とか言っている。老婆心から、あのサルたちには気を付けた方がいいと忠告してやる。
 「やつらは危険だ。人間の持っているものを、何でも奪っていく。やつらはドロボーだ」。
 しかし、そのすきをサルは見逃さなかった。昆虫記者が西洋人グループと会話しているのを見て「チャンス到来」と判断したのだ。
 リーダー格が駆け寄り、ジャンプしてレジ袋をひったくろうとする。昆虫記者の反応が一瞬でも遅れていたら、レジ袋は持ち去らていただろう。とっさに袋を上に持ち上げため、サルの爪先で、袋の一部が破けただけで済んだ。
 寄ってきたのは、サルだけではなかった。イノシシも出てきた。今朝はロッジ裏で4匹が群れているのを見ている。奴らだって、いつ襲ってくるか分からないのだ。これはもう、スタンガン程度では、とうてい太刀打ちできない。逃げるしかない。
 しかし、西洋人たちは、恐れを知らない。日本ではイノシシに襲われる被害が頻発しているということを教えてやれねばならない。彼らは、猪突猛進という言葉さえ知らないのだ。たまには、獅子鍋にして、食っているところを見せて、人間の恐ろしさをイノシシたちに周知させなければならない。
 山登り、野生動物たちとの格闘、なんやかんやで、ともかく疲れて、へたばった。夕食まで、部屋でうだうだと画像の整理でもしよう。そんなことでいいのか、昆虫記者。

東京都心・夏の公園虫散歩(水元公園続き)

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◎東京都心・夏の公園虫散歩(水元公園続き)
 最近東京都心の公園では、ゴマダラチョウの姿を見ることが、ほとんどなくなりました。それと反比例するかのように、激増しているのが比較的新参の外来種であるアカボシゴマダラですね。

 まずは春に見たアカボシゴマダラの春型です。次々と産卵して、勢力拡大を図っていました。
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 そして間もなく、アカボシゴマダラの夏型が登場。また次々と産卵していきます。
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 十匹以上アカボシゴマダラに遭遇した後、ようやく一匹だけ、純国産、在来種のゴマダラチョウを見つけました。ゴマダラチョウを探すのにこんなに苦労するなんて、たいへんな時代になりました。
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 小さな幼虫がいました。これも十中八九アカボシでしょう。
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 クヌギの樹液に集まるアカボシゴマダラです。
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 中央をスズメバチに占拠されて、脇から恐る恐る黄色い口吻を突き出しています。この樹液酒場でも、在来種のゴマダラチョウを見かけることはありませんでした。
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 水元公園はコムラサキも多いのですが、アカボシゴマダラに追い散らされて、なかなか樹液にありつくことができません。
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 アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウと同じくエノキを食樹とするテングチョウの幼虫もいました。
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 テングチョウは夏は夏眠するらしく、真夏に都心で成虫を見かけることはめったにないですね。秋に目覚めて冬はまた眠って、春先にボロボロのやつが、頑張って産卵します。
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 テングチョウの蛹はこんなです。

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 成虫の尖った鼻を見ると、テングのいわれが分かりますね。

 あとは、どこにでもいるけど、あまり気付くことのない、変な連中。

 まずはイノコヅチカメノコハムシの幼虫。この見事な造形にはピカソやダリもかなわないかもしれません。
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 成虫は地味でありふれたカメノコハムシです。イノコヅチの葉にたくさんいますね。
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 ヨモギでも同じく地味なカメノコハムシを見つけました。ヒメジンガサハムシ(別名ヨモギカメノコハムシ)というそうです。
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 この暑さの中で、暑苦しい白いミンクの毛皮のコートを羽織っているのは、クサカゲロウの仲間の幼虫です。白い毛皮は、たぶん獲物にしたアオバハゴロモの幼虫とかからはぎ取ったものでしょう。
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 ミズヒキの茎には、ハゴロモ系の幼虫が華やかさを添えています。めでたい祝儀袋の水引のようですね。
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 そして、木の枝擬態のナナフシ(ナナフシモドキ)。人々はその存在に全く気付かず通り過ぎていきます。
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 アリグモも、アリと思って見過ごしてしまいがちですが、大写しにした時の迫力はクワガタにも負けません。
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 ヒョウタンみたいな隠れ家を背負って歩いているのは、ツヅミミノムシ(マダラマルハヒロズコガの幼虫)です。

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東京原宿のカブト・クワガタ続編、虫好きレディースも参戦

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東京都心・夏の公園虫散歩(原宿のカブト、クワガタ続編)

 東京都心、渋谷区原宿。若者ファッションのメッカですね。そんなところで、虫仲間が待ち合わせ。「なんで、どうして」と思う人もいるでしょう。でも、前回の虫散歩・原宿編でもうお分かりですね。
 原宿は若者の街であり、虫撮りの街でもあるのです。
 まずは、駅からすぐのおしゃれなイタリアン・レストラン、ダッチパスタラボで、お昼を食べながら、虫情報の交換。都会派の虫撮りは、やっぱりこんな風に優雅でないといけません。
 なにせ、今回は、昆虫文学少女の新井麻由子ちゃんと、麻由子ママ、そして新進の生き物写真家の菅野詢子さんという、豪華でファッション・コンシャスな虫好きレディースとの虫旅ですから。
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 その後アーバン・インセクト・ウォッチャーズ一行は、竹下通りには向かわず、ミステリー昆虫ゾーンに突入したのでありました。

 原宿駅自体も実は昆虫ゾーンです。窓際には時々、夜から居残りの虫の姿があります。

 ウンモンスズメですね。
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 アオドウガネです。
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 そして、森に入っていくと。

 まずは麻由子ちゃんが見つけたイモムシ。この毒々しい姿はツマグロヒョウモンですね。蛹になる場所を探して、放浪中のようです。
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 麻由子ママも何か見つけました。黒い船体に黄色い丸窓の潜水艦的な姿は、セスジスズメの若齢幼虫です。この頃が一番かわいくて、大きくなるほど不気味になります。
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イモムシに熱い視線を注ぐ虫好きレディース。中央が菅野詢子さん。
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 菅野さんが、カミキリムシを見つけました。たぶんナガゴマフカミキリでしょう。
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 麻由子ちゃんがコフキコガネを発見。
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 しかし、なかなか本命のカブト、クワガタが見つかりません。やはり昼間に見つけるのは難しい。案内役の虫記者の額に冷や汗が光ります。こういう時の案内役はつらいですよね。早朝にはあんなにいっぱいいたカブトムシの姿がどこにもありません。焦りますよね。ネーチャーガイドっていうのは本当に大変だと思います。自然が相手ですから、当たり外れが大きいので、外れの時は、お客さんにがっかりされることも多いはずです。

 朝はこんな感じで、ごろごろと、カブトがいたのに…
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 昼間に見つかるのは死骸ばかり。
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 しかし、ついにその時はやってきました。帰り際になって、カシの木の根元に姿を現したカブトムシ。立派な角の♂です。お客さんの喜びもひとしおですが、ガイド役の安堵はもっと大きいです。
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 麻由子ちゃんに喜んでもらえて、虫記者もうれし涙です。
 夕刻が近づき、やっと目を覚ましたのでしょう。カブト、クワガタは基本夜行性ですから、夕方が朝食タイムです。

 カブトムシを撮影していると、外国人旅行者がワイワイガヤガヤと集まってきて、アイドル撮影会のようになりました。期せずして、観光客誘致に一役買ってしまったアーバン・インセクト・ウォッチャーズでありました。
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 その後は、コクワガタも何匹か発見し、とりあえずは、カブト、クワガタというメニューをそろえることができて、ほっと胸をなでおろしたのです。
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 たとえ小さなコクワガタでも、優しい視線を注ぐ虫好きレディースでありました。
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 コクワガタも、大型の♂はなかなかにカッコイイのです。
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 帰り道の見送りはヒグラシの合唱。夕方のヒグラシの合唱を聞けるところなんて、都会ではなかなかないのです。原宿はいい街ですね。
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 最後は原宿駅前のイタリアントマトで、ビールやコーヒーを飲んで昆虫談義。暮れ行く原宿はアーバン・インセクト・ウォッチャーズのインセクト・トークにふさわしい、ピクチャレスクな風景なのでした。

麻由子の虫旅、ボルネオハイランド①

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知る人ぞ知る昆虫文学少女の新井麻由子ちゃんから、待望のボルネオ虫旅レポ第弾が届きました。今回の主戦場はサラワク州のボルネオハイランド。いつも何かやらかしてくれる麻由子ちゃんと、麻由子ママ。今回もワクワク、ドキドキですね。皆様も、待ち遠しかったことでしょう。早く読みたいことでしょう。「邪魔な昆虫記者は早く引っ込め」という声が聞こえてきました。前置きも、結婚式のスピーチも、短いのがいいですね。

 

  2018 /29~ Borneo Highlands!


昆虫記者さんの読者の皆さま、再び失礼いたします。新井麻由子です。どうぞよろしくお願いします。

 もう夏休み真っ只中だと言うのに、やっとの春休みの虫旅レポは、マレーシア領ボルネオ島、サラワク州ボルネオハイランドです。

 

 出発の一週間前、昆虫記者さんのタマン・ネガラからの無事お帰りのお知らせを受け、緊急ミーティングです笑。

 色々やらかしていらしたお話を聞かせていただき(jiji.com

参照)、「この人は絶対に期待を裏切らない」と、尊敬を新たにせざるを得ない私たち親子。

 それでいて「どうせまた何かやらかすんだから、しっかり写真撮ってくるようにね!」と昆虫記者さん手作りの愛用ライトトラップを持たせていただき、送り出されたのでした。

 

 前回のサラワクでの美味しいものが忘れられず…

 すっかりサラワクにはまってしまった私は、クチンから行けるところを探しに探し、ボルネオハイランドが有力候補に上がっていたのですが、情報が一切なく…

 ギリギリまで悩んだ末、やっと最終決定に至りました。

 クチンの町から車で約2時間、標高約1000m、インドネシア領カリマンタン島との国境に位置するボルネオハイランド。

 今回は虫情報ほぼ皆無のここへナナフシがいそうな予感?だけを頼りに一か八かの勝負です!

 

 前日の夜遅くにクチン入りしてすぐに前回通ったレストランへ直行、本日n回目の食事です♪

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 前回帰国してから何度も夢に見たサラワク料理です!心の底から「うまい♡」!

 もう22時を過ぎているというのに、しかも機内で二度も夕食を済ませていたというのに、すべて飲み物のようにするするとお腹の中に吸い込まれてしまいました。

 母も明日起こることなどは当然知る由もなく、機嫌よくサラワク料理を楽しみ、最高の気分でのスタートとなった今回の虫旅なのでした。

 

 翌日は早起きして早速出かけます。クチンはマレー語で猫を意味します。町のいたるところに猫の像やおしゃれな首輪で着飾ったリアル猫ちゃんたちが溶け込んでいます。

 みんな毛並みが良くとても人に慣れています。クチンの人々も猫ちゃんをとても大切にしています。

 

クチンちゃんおはよう!

かわいい♡

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 クチンちゃんはもうすぐお母さんになるみたいです。がんばってね。

 
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  こちらは猫の家族の像。

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マンホールの蓋も猫!

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 クチンでは猫ちゃんはとても可愛がられるのですが、犬が割と厳しく飼われているようです。

 大型犬を怒鳴りつけて頭をパチンと叩いた直後にまさしく猫なで声で猫ちゃんに話しかけている光景を何度か()見ました。> <

 

 実は、こんなに早起きしたのには訳があります。どうしても食べてみたくて、わざわざそこに一番近いホテルを予約したというLAKSAのお店で朝食をいただくことが本日最初のミッションだったのです。

 ローカルの人々に人気で、8時までには売り切れてしまうというので、開店時間の6時には支度を済ませ意気揚々とお店へと向かったのでした。

 今回最大の楽しみと言っても過言ではありません。次々にやって来る車が目印になり、お店はすぐに見つかりました。

 待ちに待ったLAKSAです♪すでに人がいっぱい!いい感じです!

 

 しかーし!母は全く気がついていませんが、もはや私の目はその地味な貼紙に釘付けです。それは母にはものすごく言い難いことでした。

 そうです!今の私たちにとって最もありえないことが書かれた貼紙です。

 
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 3/30~4/3 までお休み…

 今日は紛れもなく330日。

 ここからは皆さま私たち親子の落胆をお察しください。しばらくその誰もいないワゴンの前で貼紙を見つめる母。その背中には明らかに「絶望中」というテロップが見えるようでした。

 何のためにクチンに来たのか…。そして二人して全ての思考がストップしてしまい、隣のワゴンで予定とは違う朝食をいただいてしまいます。

 

 

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 その間も、母は「なんで?」「聞いてない」などなど、ブツブツ言い続け、挙げ句の果てには「こんな悲劇があって良いの?」「お願い」とまだ見ぬLAKSAの店主へ訴え続け、その悲しみは半端ない。

 これはこれでおいしかったのですが。そしてほぼ完食しかけたその時!私は大事な情報を思い出したのです!

 「ある!この近くにもう一軒あったよ!LAKSAの名店!」

 こうして朝からご飯のハシゴをすることになったのでした。

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 この豊かなエビとココナッツミルクのハーモニー!そうそう、これが本場のSARAWAK LAKSA!こちらはやや辛めですが美味しいー涙!噛みしめました!
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 レンタカー会社の方と約束しているので、急いでホテルに戻ります。

 今回は前回の反省とともに、かの昆虫写真家の巨匠・海野さんに SUV車を借りるように言われていた母は、一旦海野さんに選んでいただいた車をそのまま予約していたのですが、直前になってそれではホテルに届けてもらえないことがわかり、急いで別の会社を探します。

 けれども出発までもう日にちがなく、空いているSUV車はトラックのようなすごみありのものばかり…

 その大きな車を運転できる気がしなかった母は、何れにしてもゲートに車を置いて上までは送迎をお願いするからと、またもやマレーシア国産のコンパクトカーにお世話になることになったのでした。

 

 まだ朝食を食べたばかりでしたが、山に入るとベジタリアンフードばかりなので、クチンの町を出る前にランチです。

 

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 ナシレマクとマンゴーのスムージー♡美味 ^ ^

 

 

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 ココナッツチーズタルト

 超美味 ^ ^

 

 さあ出発です!走り始めて小一時間で町を抜け、次第に山道に…

 途中、これで最後かもという感じのミニスーパーでお水などを調達。約2時間でボルネオハイランドのゲートに到着です。

 

「無事に着いたね〜」母が運転を終えホッとしています。

 ただ、この日はどこまでも悲運な母なのでした笑。

 早朝のLAKSAの悲劇がまだ癒えず、やっとたどり着いたと思ったその時に、ゲートのおじさんに笑顔で当然のように「自力で上まで行けるよ」と言われてしまったのです。

 これはとてつもなく大きな誤算でした。そこでよく話を聞いてみると、途中オフロードかと思っていた道は綺麗に舗装されていて、ゆっくり行けば大丈夫、No problem!らしいのです。

 「この小さい車でも?」

 「Sure!

 「・・・・・」

 「うそ」(母)

 「大丈夫?」(私)

 「泣きたい」(母)

 「先泣く?笑」(私)

 

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麻由子の虫旅・ボルネオハイランド⓶

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 部屋でお茶を飲み、ひと休みした後、夕食。
 部屋は綺麗ですが、肝心のバルコニーがなく、頑張って持って来た昆虫記者さんのライトトラップを設置する場所がない!
 それでもホテルのスタッフがフレンドリー過ぎて全く憎めなく、まいっか…と言う気持ちになります。
 
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 大豆と野菜のサテー
 野菜のカレー
 ミーゴレン
 それ程期待していなかったベジタリアン料理が旨い!
 
 この美味しい食事を超特急で済ませ、ナイトウォークの集合場所へ急ぎます。
 …が、8時の集合時間ぴったりになっても誰も来ない…
 しかも夕方から降り始めた雨が激しくなってきた。
 10分後、ガイドさん着。
 ご一緒のドイツ人のご夫婦が降りて来たのは8時半をすっかりまわった頃でした。もう少しゆっくり食べてくればよかったと後悔です。
 この旦那さまは鳥の写真を撮りに来られたらしく、ものすごく重厚なカメラをお持ちでした。奥さまは「ちっとも楽しくない!」と言いながら、ナナフシに会いたい私に、「今日見たのよ」とブルーのとても綺麗なナナフシの写真を見せてくださいました。
もしかしたら期待しても良いかも♪
 
 車で5分ほど登って、インドネシアとの国境へ向かいます。雨が弱まりもうすぐ満月を迎える月が薄くなった雲の後ろで明るい光を放っている。
 これまで新月ばかりを選んでいたので夜がこんなに明るいことに驚きです。月の明かり強力です!
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 当然ですが、カリマンタンの景色は真っ暗で何も見えませんでした。
 ドイツの方は寝ている鳥を探します。
 私はナナフシを探します。
 いました!
 
Male Epidares Nolimetangere
Kubahにもたくさんいたナナフシです。お久しぶり♡
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  セミは月夜の下で脱皮中です。
このセミはボルネオの固有種だそうです。
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 こんなに綺麗で神秘的なのに、鳥にとってはただの餌だからか、張り切って伝えに行ったのですが、ドイツ人の鳥好きさんは一枚も写真を撮ってくれませんでした!
 一枚も・・です笑。
 やはり虫好きと鳥好きの間には隔たりがあるのでしょうか…
もちろん地味なナナフシなんて論外かも?笑
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 でも、その鳥好きさんをも喜ばせたのがこの方。
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 ミツヅノコノハガエル先輩・・!!
 トトロを彷彿とさせる堂々の佇まい。
 このどんなことにも動じない感、そして果てしなく枯葉に溶け込んでいる感、そして何よりもこのロケーションのセレクトの完璧さ!すごいとしか言えません!
 全員が激写している間、微動だにせずずっとカメラ目線をキープしてくれました。
 今回はガイドさんに手のせを禁止されました。(ガックリ)
いつまでも見ていたかったです。
 私はやはり擬態する生物が好きなのか…と再確認しました。
不思議な出会い〜〜♪
 
 こちらでも脱皮中
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 樹上にも♪

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 まだこのボルネオハイランドに来て数時間だというのに、しばらくここにいるような不思議な感覚です。

この後車から全員で強力ライトを照らして、夜が更けるまで探検は続きました。

 

せっかく、ナナフシもミツヅノコノハガエルも登場して、大いに盛り上がっているところで、またまた昆虫記者登場です。期待を持たせて、次回につなぐ、朝ドラ的主要ですね。麻由子ファンから石ころとか、爆弾とか飛んできそうですね。


麻由子の虫旅・ボルネオハイランド③

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新井麻由子ちゃんの「ボルネオハイランド虫旅レポ」第三部は、清々しい朝の風景から始まります。

 

 翌朝陽が昇り現れたインドネシア、カリマンタンとの国境。

見渡す限りの絶景です!

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 この低い柵が隣の国とを分けています。

 ホテルの方には普通に歩いて1時間、ゆっくり歩くと1時間半と言われたトレッキングコースを6時間もかかって歩いて来た直後で、膝がぷるぷるしていたのですが、吹き抜ける気持ちいい風を一生懸命に吸い込んで復活です!


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 手と足だけインドネシアにお邪魔して来ました♪

 鳥や虫は自由に国境を行き来しているのを見上げながら複雑な心境です。

 

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 ここはアシナガバチの縄張りだったようで、散々威嚇されながら、必死で写真を撮りました。手に乗せて見たいのですが、ハチが何度も帽子にアタックしてきます!怖

 怒ってます!

 とりあえず一度退散。

 

Nymph of Paranecrosciarivalis

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 かわいい!

 同じ樹に6頭、上手に隠れています。

 ここはハチもいなくてとても平和です。

 

 随分時間も経ったのでさっきのコケナナフシの樹に戻ってみると、やっぱり同じ場所にいます。手に乗せて喜びのひとときを過ごしていたのですが、すかさずアシナガバチも戻ってきてしまいました!

 しかも更に怒っています!

 厚手の帽子を被ってきて良かったです。

 ここで立ち止まるのを諦めて先に進むことにしました。


 こちらもベビー♡

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 ここでまた、昆虫記者登場で一区切りです。CMの多い深夜番組みたいですね。中断されるたびに腹がたってきますね。いよいよ次回は感動の最終回。待ち遠しいですね。

麻由子の虫旅・ボルネオハイランド④世界最長ナナフシ

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(新井麻由子ちゃんの「ボルネオハイランド虫旅レポ」第四部は、名残惜しい最終回。どんな歓喜が、あるいは悲劇が待っているのでしょうか。)

 

 母もボルネオハイランドの山道に慣れて来て、この日は山を下りてAnnah Rais hotspring へ♪

 ハイランドのゲートを出てそう遠くありません。

 綺麗な川沿いを走ります。

 車中から2度アカエリトリバネアゲハを確認!

 期待が膨らみます♪

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 でもここの受付のおじさん曰く、

 「虫は一匹もいない!」

 「蝶々もいないの?」()

 「蝶々はいる」(おじさん)

 「いるんだ」()

 「イモムシは?」()

 「いない!」(おじさん)

 「トンボは?」()

 「あー、トンボならいるかもしれない。蝶々とトンボ以外の虫はいないから安心して楽しんで来なさい」(おじさん)

 

 おじさんには「虫に会いたくて日本から来ました」とは言えなかった。言うタイミングを完全に逃してしまった。

 いかにも虫が多そうな高温多湿の体感温度。ハイランドから下りてくるだけで日差しも気温も全く違いました。

 温泉がある川に向かう道の両側に誰かの食痕がおびただしくついた樹々が並んでいる。もしかしたらディラタタなどもいたりしない?そんな雰囲気です。

 大型のいろいろな蝶も優雅に飛び回り…

 足元には無数のハンミョウがせかせか歩き回っています。

 

(昆虫記者の余計な解説=本当なら、ここに美しいヤツボシハンミョウの集団の写真が入るはずだったのですが、どうやら麻由子ママが、何やらやらかしたようで、写真を消去してしまったらしいです。そのせいで新井家で、どんな血生臭い争いが起きているかは、知る由もありません)

 

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 石で丸く囲ってあるところが温泉です。

 川底からポコポコとお湯が湧き出ています。源泉を足で塞いで見るとうっかりやけどしそうな温度です。

 お湯は適温!歩き疲れた脚が癒されます♪極楽です♪

 おじさんの予告通り、温泉のふちには赤とんぼがとまっています。あのおじさんは正しかったのです!

 このいかにも虫が多そうな環境の中、実際に見ることができたのは蝶とトンボとハンミョウだけだったのでした!

 蝶とトンボの他にハンミョウもいたことは、おじさんには黙っておきました。

 

 帰りにオランアスリの村に立ち寄り、搾りたてのサトウキビジュースをいただきました。

 おばさんがこの装置を使ってサトウキビジュースを絞ってくれます。

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 ビジュアルが少々微妙だったため、ちょっとためらいましたが、隣でおばさんがにこにこと見ていて笑、覚悟を決めて一口…

氷の中でキンキンに冷やしてくれていたこともあり、全く恐れる味ではなく、

 「おいしい!」と言うと、おばさんはさらににこにこ ^ ^

 私もなんだか嬉しくなってにこにこ ^ ^

 

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 帰り道、唯一のカフェで遅めのお昼です。

 Sarawak Laksa

 お店によって味が全然違うのですが、こちらのLaksaもとてもおいしかったです。

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◇世界最長級、巨大ナナフシついに登場

(昆虫記者です。邪魔だと言われても、顔を出さずにはいられません。みなさん、心の準備はいいですか。なんと、なんと、世界最長級、60センチクラスのナナフシ、ついに登場します。みなさん、息を止めて、かたずをのんで、ご覧ください。)


 さて、そろそろ下山する日が近づいてきました。
 ここで私のナナフシ人生最大の出会いをご報告させてください。


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Phobaeticuskibyii !!!

全長600mm以上です!

 

 まさかナナフシをおんぶできる日がくるとは思いませんでした!もしかしたら一生に一度の出会いだったかもしれません。

 尊過ぎて身体中から喜びが溢れ出してしまいます。

 これまで標本などを見てどうしてここまで大きくなる必要があるのかと思っていましたが、実際にジャングルにいるところを見たら妙に納得してしまいました。

 大きい方が都合が良かったのかもしれません。

 このサイズは想定外過ぎて、小さいナナフシよりも更にナナフシとは認識できないのです。

 だからかえって敵にも見つかりにくいのかもしれません。

 大きいからこその利点…

 森に溶け込んだ後は滅多なことではピクリとも動かない上、この時のように万一見つかってしまったとしても、背中を触っても手に乗せようとしても頑固に樹にしがみつき、怪力を発揮して枝のふりを貫きます!

 それでも樹から剥がされてしまうと、今度は長い脚で全速力で逃走します。私の足から頭までたった2歩!

 一歩が大きい上に意外と早足で驚いてしまいます。

 この時ばかりは舞い上がってしまい、ジロジロ見てごめんねと思いつつも夢中で顔を観察したり、手にぶら下げ頭に乗せ…

 必死で撮った写真は180枚を超えていましたが、多分嬉しさ余って手も震えてしまっていたのかもしれません。ボケていない写真はほとんどないと言う失態です。

 昆虫記者さん!ごめんなさい!

 

 またこれで私的にクチンの評価が上がってしまいました!どうしてこんなにクチンが好きなのか!それは、おいしいもの、激安足つぼマッサージ、そしてナナフシ!私に必要なものが全て揃っているからなのかもしれません!

 今回見つけることはできませんでしたが、コノハムシもちゃんといるそうです。そして今回は前回出会えた方々が覚えていてくださって、とても親切にしていただきました。

 ナナフシが運んできてくれた素敵なご縁が海外にも広がっていくのはとても幸せです。

 今回は特に、この巨大ナナフシとの出会いに酔いしれ続け…

 これまでで一番帰りたくないと思った虫旅でした。でもこれは、毎回必ず思っています。

 だから虫旅はやめられない!だから、虫好きは止まらない!

 旅は虫連れ、世は情け!ナナフシガールの虫旅は続きます。ボルネオハイランドの虫や自然たち!ありがとう!

 

 ナナフシに偏った虫レポを最後までお読みくださりありがとうございました。昆虫記者さん!ありがとうございました。

次回のサイヨークでもぜひ斜め上を行っていらしてください!

 

20187

新井 麻由子

 

(昆虫記者です。麻由子の虫旅、すごいですね。60センチ級ナナフシといえば、世界最長級です。ギネス級です。メジャーを持っていくのを忘れたらしいですが、絶対持っていくべきでした。せめて麻由子ちゃんのこの青い上着は保存して、ナナフシの体長の推定を記録すべきだと思います。とんでもない記録かもしれないですよ、これ。やはり、麻由子ちゃんは、何か「持ってる」と言わざるを得ません。今頃は、また海外虫旅の最中のはず。行き先はタイのカオヤイです。持ってる麻由子のタイ虫旅の成果にも期待しちゃいますね。)

マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑪

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マレーシア・ジャングル放浪記inタマンネガラ⑪
 ◇疲労回復にこの一手
  朝だ。ともかく眠い。「タマンネガラ」滞在も既に4日目ともなると、疲れがたまっている。一日のエネルギーの大半を無料の朝食バイキングで摂取しないといけないのに、腹が減ってない。
 「ラジオ体操でもして腹を減らすか。よっこらしょ」とベッドから起き上がるが、途端によろけそうになる。腰骨がバキバキ。そして筋肉がズキズキ。ウウッ。足の筋肉が痛いのは仕方がないとして、なんで腕の筋肉まで痛いんだ。そうか、ロープでの上り下りとかもやったからな。その上、毎日昼の虫撮り、夜の虫撮りの後、一日2回「全手動」で洗濯したからな。最後にギュッと雑巾絞りするのが結構きつい肉体労働だった。
 荷物を減らすため、パンツは使い捨ての紙パンツ(100均一で5枚一組ぐらいで売っています。荷物が減るし、洗濯の手間も省けて便利です。しかも涼しい)。
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 100円で5日分の紙パンツ。使い捨てなので洗濯の手間なし。帰りの荷物にもなりません。

 しかし、上着とズボンは紙というわけにはいかない。3組しかない上着、2組しかないズボンは、毎日洗濯(浴槽があれば、入浴中に中で洗い、なければシャワーを浴びる時に足元で踏みつけながら洗うと手間と時間がはぶけます)しないといけないのだ。
 日増しに運動量が減っていく。だんだん怠惰になる。疲れもあるし、熱帯の気候が人間を怠惰にするようだ。あくせく働いたって仕方ない。疲れもあるし、熱帯の気候が昆虫記者本来の怠け癖を引き出す。必死で働いても誰も褒めてはくれない。やる気の出ない日は、ダラーンと、ベローンとしているのがいい。
「でも虫は見たいしな」。ならば外に出ないといけない。猛暑の中でのジャングルトレッキングはもう嫌だ。ジャングルは暑いから、汗をかく。そうすると、加齢臭も加わって、服は悪臭を放つ。すると、また重労働の洗濯をしないといけない。うーん、何か都合のいい解決策はないものか。
 「そうだこの手があった」。2日目にちょっとだけ行ったタハン川の浅瀬に広がる天然のプール、ルボ・シンポン(LUBOK SIMPON)だ。ロッジからタハン川沿いの平坦な木道をのんびり歩いて、わずか1キロほどの距離だ。一日中あそこにいれば涼しいぞ。サンダルも持ってきているし。ズボンをまくって、水に足を漬けていればいい。
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 ルボ・シンポンは、ホテルから1キロほどでたどり着ける

ジャングルの中は風がないから蒸し暑い。でも、河原は風が吹き抜ける天然のクーラーだ。そして、水辺には、涼を求めて蝶が飛んで来るはずだ。
体力低下が著しい中高年には、過酷な虫撮り労働の合間に、安楽に過ごす一日が絶対に必要だ。気概とか、意気込みとか、そんなものは過去の遺物だ。過労で倒れるようなブラック企業的な虫探しはトレンディーではないのだ。今や働き方改革の時代である。長時間労働是正が叫ばれる時代なのだ。楽してなんぼである。
そうと決まれば、筋肉痛もなんのその。昼の弁当の用意だ。昨日買ったリンゴの皮をむいて。朝食の際に、レストランで紙に包んだナシレマク(ココナツミルクで炊いたご飯とおかず)を作ってもらおう。

◇水の都、ジャングルのベニスでまったり、
 頑張って大量の朝食を腹に詰め込んだら、のんびりと天然プールへ向かう。今日も天気はいい。少し汗をかき始めたころには、もう天然プールに到着してしまった。
なるべく人のいないところまで行って、サンダルに履き替え、ズボンの裾をまくって、ザブザブと水の中へ。ひんやりとして気持ちがいいぞ。「いやー極楽だ」。額の汗がスーッと引いていく。やっぱり、こうでなくっちゃ。炎天下のジャングルウォークなんて最低だ。水辺でのんびりバカンス気分。これでこそ南国の休日だ。
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 たまにバードウォッチャーを乗せたボートがやってくるので注意。

水辺で待っていれば、のどを潤しに蝶がやってくるだろう。ときどきそんな蝶を撮って、また水に浸かって。
そのうち日が高くなって、西洋人カップルの数が増えてくる。昆虫記者のテリトリーにまで水浴びにやってくる。女性はみなビキニ姿だ。男も水着だが、たいていカメラマン役を務めている。なにせ、背景がこの上なく素晴らしい。緑のジャングルを貫く清流。頭上には南国の日差し。ベストシーンで、彼女のベストポーズの写真を撮ろうと、四苦八苦している。彼女をモデルに撮影会。彼女は彼女で、女優かスーパーモデルにでもなった気分なのだろう。勘違いもはなはだしいが、この風景がその気にさせる。
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女性たちは、あれこれとポーズを取る。かなりセクシーなポーズも、こういう大自然の中だと、恥ずかしくないのだろう。さすがに、こういうシーンにはカメラを向けることができなかった。目だけは釘付けだったが。なんなんだここは。グラビア撮影の聖地なのか。

 「虫撮りにきたはずなんだけどな。なんか気が散るな」。目のやり場に困るというか、視線がどうしても、本能的にビキニの方へ吸い寄せられてしまう。これはまずいぞ。さっきカワセミの仲間のキングフィッシャーが飛んできたのに、シャッターチャンスを逃した。きれいな蝶が来た時も、撮り損ねた。
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 ベッコウトンボの仲間。

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 オレンジ色系のジャノメチョウ。アナピタコジャノメだろうか。

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 たぶんエルナシロサカハチシジミ

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河原で撮れたのは、こんな地味系の蝶ばかりだった。シジミはたぶんヤクシマルリシジミ。

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シロモンルリマダラ

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 ルリモンジャノメ

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 ビロードタテハのようだが、羽を開かないと意味がない。

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 ウラギンシジミの仲間

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 たぶんクロマダラソテツシジミ。幼虫はソテツ若芽をたべる害虫として有名。関東に進出したこともあり、三浦半島でも大きな被害が出た。

ちなみに、この日の弁当は、朝食の際にレストランで作ってもらったナシレマクだった。やっぱり日本人はパンよりご飯だ。この弁同はエコだ。食べ終わったら、残るのはご飯を包んでいたバナナの葉と紙だけだ。屋台などでも売っているので、是非試してほしい。
でも、目の前で展開される水着ショーのせいで、弁当の味はよく分からなかった。ご飯に混ぜ込まれたおかずが何だったのか、全く記憶にない。「だめだ、だめだ。邪念を振り払わねば」。動物的本能を理性で押さえつけなければならない。虫撮りには、悪魔の誘惑に抵抗する強い意志の力も必要なのだ。
 カップルや家族連れでタマンネガラに来たら、この天然プールは絶対お勧めだ。山登りやトレッキングの合間、1日はここで、のんびりと過ごすのがいい。足を水に漬けていると、小さな魚たちが寄ってくる。水は、ジャングルの落ち葉から染み出したタンニンで、薄い紅茶色なのだが、にごっているわけではない。この色も1億3000万年の森の歴史がしみだしていると思えば感無量である。
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 水は紅茶色。美容効果が高そうだ。

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 足元には小さな魚が群れている。

 そして、水中からは常に水は湧き出しているらしく、あちこちで泡が立ち上っている。きっとミネラルも豊富なのだろう。水に漬かっているだけで、肌がすべすべになってくる。美肌効果が高そうだ。
ただし、虫撮りやバードウォッチングが目的ならば、短時間で切り上げるよう忠告する。次々とやってくる水着の女性のせいで気が散って、虫撮りどころではなくなるからだ。ついつい、カメラがあらぬ方向を向いていたりするのだ。

◇宝石の名を持つ蝶、ホウセキシジミタテハ
いつの間にか日は傾き、日本なら夕焼け小焼けのメロディーが流れる時間になった。結局ルボ・シンポンでの虫の撮影枚数は、異常に少なくなった。こんなことでいいのか。これでは、昆虫記者ではなくて、ただの怠け者のおやじではないか。
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 熱帯の河原の常連、ヤツボシハンミョウ。大型できれいなハンミョウだ。

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 そのほかにも、名もなき地味なハンミョウがたくさんいる。

だが、帰り道には、大きな収穫がちゃんと待っていてくれた。ホウセキ(宝石)シジミタテハだ。これだから虫撮りはやめられない。ずっと以前に一回だけ、同じマレーシアのキャメロンハイランドで出会ったことがあるが、暗い森の中だったので宝石の輝きは今一つだった。その上、羽はボロボロだった。
まともな写真が撮れたのは、今回が初めてと言っていい。しかも、タマンネガラ滞在期間を通じて、ホウセキシジミタテハに遭遇したのは計3回。そのうち2回は撮影に失敗するという、ていたらくだったが、老眼で乱視の昆虫記者が3回も見ることができたのだから、かなりの数が生息していることになる。
その美しさは、まさに森の宝石。今回の旅行代金総額10万円分の美がこの蝶に凝縮されていると言っても過言ではない。
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 宝石の名に恥じないホウセキシジミタテハ。女性を彩る宝石は高価だが、自然を彩る宝石は無料。

あくまでも、旅行代金の元を取りたいというギラギラした執着心が、こういう見事な成果につながるのだ。「旅行なのに元を取ろうなんてゲスの極み」などという批判は、金額を気にせずに買い物や食事ができる富裕層の言葉だ。スーパーで半額商品ばかりを買っている昆虫記者のような生活環境では、たとえ虫撮りでも、元をとることが大切なのである。「これで元をとったぞ」、という満足感が大切なのだ。これで、シンポンでの空白の数時間の埋め合わせはできた。どんなに怠けていても、ちゃんと最後には帳尻を合わせる。これでこそ昆虫記者だ。
 
◇新兵器導入
 モチベーションを高め、維持するためには、小さくとも新たな目標が必要だ。新しい機能のカメラがあれば、いままでと違った写真が撮れる。そこで急きょ購入したのが、カシオのエクシリムfr100。
 モニター部分と、レンズ部分を切り離して使用できるという、ちょっと変わり種のカメラだ。またしても、新兵器に頼る安直な戦略だ。自らの昆虫探索能力に自信がないと、ついつい、新兵器に頼ってしまう。それも仕方のないことだ。人間は弱い生き物なのである。特に昆虫記者は弱い。文明の利器に囲まれていなければ、大自然には立ち向かえないのである。
エクシリムがあればレンズを虫の近くに置き、虫目で自撮りをするという離れ業も可能になる。でも、ほとんどの操作をモニターの液晶画面へのタッチで行うので、スマホやタブレットといった若者の世界になかなかなじめないオジサンとしては、非常に使いづらいのである。
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 この状態なら手持ちで自撮りができる。モニターを鏡面反転設定にしておくと使いやすい。

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           モニター部分とレンズ部分を切り離して使えるのが画期的。数メートル離れた場所にレンズ部分を置いて、手元のモニター部分で画像を確認してシャッターを切ることができる。

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 こうして折りたたむと、普通のカメラのようになる。

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 Amazonで1000円ほどで買った、伸び縮み以外に何の機能もない自撮り棒をレンズに取り付けた。これがあると、木の上の虫とか、虫とツーショットの自撮りとかが、簡単にできる。

焦点を合わせるのも、画面タッチ。半押しに慣れ親しんだ旧人類カメラマンは馴染めない。なのにスマホ慣れした人にやってもらうと、いとも簡単にこなすのだ。
「そんなに強くやならくていいの。もっと、サッと。すらっと」と注意された。しかし、こんなことでくじけてはならない。本当に頑張った人だけに許される感動の涙というものがあるのだ。若者の機器をしょぼくれたおやじが使いこなすための、血のにじむような苦労。その先に開かれる輝かしい映像世界。
 ターザンのごとくジャングルを駆け抜ける体力もなく、根性も鉄の意志もない昆虫記者は、虫をだまし討ちにする汚い策略や、秘密兵器に頼るしかないのだ。
 レンズを地面に置いての自撮りは、まずまずかっこいい。足が長く見えるのだ。どこのファッション誌の男性モデルさんなの。と言われそうな恰好よさ。
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 地面にレンズを置いて撮ると、足が長く見える利点がある。

 しかも、レンズを正面から見る必要がないので、斜め前方の獲物を凝視する昆虫ハンター的な写真も撮れる。
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 以前、新宿御苑編で紹介した自撮り棒を使った写真。設定をマクロ、画面タッチによる焦点合わせ、鏡面反転にすると、虫が主役の自撮り写真に便利。

 旅先で知り合った人々との集合写真なんかも、簡単に自撮りできる。知り合った相手が、たまたま金髪美女だったりしたら、夢のツーショットも気軽に撮れる。一体何を考えているのだ。虫撮りの新兵器として導入したカメラではなかったのか。恥を知れ。
 しかし、すべての物は、有効活用しなければ、もったいないという説にも一理ある。だが、画像が妻に発見されて、激怒される恐れは常にある。要はこういったリスクを受け入れる覚悟があるかどうかである。
 「虫撮りに便利な新しいカメラを見つけたんだけど、買ってもいいかな」という、おどおどした提案を、しぶしぶながら承認してくれた妻。そこには、愛と信頼があったはずだ。それが裏切られたと知った時、何が起きるのだろう。
 自撮りをしてみて、気付いたことが一つある。それは、いかに自分が虫撮りの際に、汗まみれ、泥まみれのひどい姿をしているかということだ。服もボロボロ、ヨレヨレだし。
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 レンズを離して置いて撮ったタマンネガラの写真。

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自撮り棒を使って撮ってみた。

 そうなのだ。自撮りするなら、まず身だしなみだったのだ。普段から自撮りしている人には基本中の基本。だが、自撮りなどやったことがない昆虫記者は、撮ってみてびっくりなのだった。
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