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Channel: 虫撮る人々
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水と緑の回廊、後編の主役はヒカゲチョウ幼虫

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 千葉・市川市の「水と緑の回廊」後編です。
 この散策コースはうまく回ると、ほとんど市街地を歩かずに、長距離にわたって森林浴気分を楽しめます。ベッドタウンとしての開発を進める中で、どんな配置で緑地を残すか、関係者の苦労がうかがわれます。にもかかわらず、このコースを歩き通そうとする人は少ないようで、じゅんさい池緑地を抜けた後は、ほんの数人しか散歩中の人を見かけませんでした。なんか、もったいない気がしますね。

 じゅんさい池緑地を抜けると、小塚山フィールドアスレチックを経て、小塚山公園に行き着きます。
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 昼間飛ぶフユシャクの仲間、クロスジフユエダシャクがやたらと多い公園でした。これからいろいろなフユシャクが見られるのかもしれません。要チェックですね。
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 小塚山公園での収穫は、ヒカゲチョウの幼虫。久々の嬉しい出会いです。12月に入ると、見られるイモムシも限られてきますから、笹の葉裏にこいつを発見すると、何だかホッとしますね。さびしい冬景色の中、孤独な昆虫愛好家と、寒さに耐える小さなイモムシとの感動的出会いです。まあ、イモムシの側は「ちぇっ、見つかっちまったか。放っておいてほしいのに」とか思っているでしょうから、実際は片思いということでしょう。
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 その先の堀之内貝塚公園へは、東京外環自動車道の上を歩道橋で越えていかなければなりません。ここはもう少しうまく、緑をつなげてほしかったところですね。周辺はまだ整備中のようだったので、将来は緑の歩道がつながることを期待したいと思います。
 貝塚公園は深い森の雰囲気が残っていて、暖かい季節に来たら収穫が多そうなところです。
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 エノキの根元の落ち葉の中には、ゴマダラチョウの幼虫。お尻の先が開いているので、アカボシではないようです。
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落ち葉をひっくり返していたら、オオホシカメムシも出てきました。安眠妨害してすいません。
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セイタカシギ&アカエイ・ウォッチング

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 京成本線の谷津駅で下車。狙いはシジミチョウの集団越冬ですが、途中で谷津干潟を通るので、ついでにバードウォッチング&フィッシュ・ウォッチングです。

 この干潟の常連で一番写真写りのいい鳥は、セイタカシギですね。見える範囲にいたのは6羽ほど。作り物のような、長くて細くて赤い足が売りです。この長い足のおかげで、岸から離れた安全な場所で、水面に片足立ちしているような姿で眠ることができるのでしょう。
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 でも足が長すぎて、餌をとる際にはバランスを取るのが難しそうです。
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 その他の鳥は、地味なシギとコガモとサギが多め。
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 魚の群れがやってきたようで、突然水面が激しく波立ちました。すると、一斉に集まってきたのは、サギとウ。
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 天気が悪かったので、うまく撮れませんでしたが、ウが次々と魚を捕まえて、文字通り鵜呑みにしてました。生で鵜飼を見たことはないのですが、きっとこんな感じなのでしょう。
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 漁が終わると、ウは一斉に泳ぎ去って行きました。
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 そして、いつものフイッシュ・ウォッチング。ここでは確実にアカエイが見られます。今回は運よくカップルに出会いました。求愛は成功したのかどうか不明です。アカエイとセイタカシギが一度にみられる場所は数少ないでしょう。東京近郊ではここだけかも。
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 帰りの夕暮れの風景です。
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 セイタカシギは、いつもの片足立ちで眠っています。
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 サギは杭の上がねぐらのようです。
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 そんでもって、本命のシジミチョウの集団越冬は見られたのでしょうか。それは昆虫の書庫に続きます。

京成谷津駅からの旅、シジミチョウのクリスマスイブ

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 谷津干潟でバードウォッチング、アカエイ・ウォッチングを終えた後は、シジミチョウの越冬観察に向かいます。

 このあたりの公園にはマテバシイが多く、ムラサキツバメ(鳥ではありません。シジミチョウの仲間です)の集団越冬が見られる確率がかなり高いのです。でも、当たり年と外れ年があって、ほとんど見られない時もあります。冬の虫探しは厳しいですね。でも、運良く何組もの越冬集団に巡り会えると、その喜びはひとしおです。

 まずは3匹の小集団を発見。まだ眠りが浅いようで、カメラのライトを当てていると、もぞもぞ動き始めました。
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 次は6匹の集団。今回はこれが最大の集団でした。可もなく不可もなく、そこそこの収穫という感じです。一応枯れ葉に擬態しています。
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 最後に見つけたのは、マテバシイの枝に引っかかった枯れ葉をうまく利用した、これまで出会った中で一番擬態のレベルが高い集団でした。枯れ葉の裏側にも一匹いて、計5匹の集団でした。近縁のムラサキシジミは枯葉を隠れ家にすることが多いようですが、ムラサキツバメが枯れ葉を利用しているのを見たのはこれが初めて。彼らの擬態も次第に進化しているのでしょうか。
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 冬はこうして、暖かく家族団らんで過ごしたいものです。でも、実際はそんな甘いものではなくて、この集団の中で何匹が春まで生き残れるのか、それは天候次第。自然界は厳しいのです。

 葉の表側で集団越冬するムラサキツバメと違って、たいてい一人ぼっちで葉裏で越冬するのが、ウラギンシジミです。この日は2匹見つけました。どんだけカメラを近づけても逃げられないのが、冬の虫撮りのいいところです。
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 こうして1匹でいるのが、小さな隙間からの木洩れ日のように見えて擬態になるのでしょう。でも、1人きりのクリスマスイブを迎えるのは、何だか寂しそうですね。

丑年でもないのにホルスタインことチャバネフユエダシャク♀で年明け

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 新年、明けましておめでとうございます。今年は亥年だそうで、年賀状のイラストは当然イノシシなわけですが、虫撮りの新年はやっぱり牛、ホルスタインの愛称を持つチャバネフユエダシャクの♀ですね。

 と言うことで、過去の戦績から比較的確率の高い、小田急線向ヶ丘遊園駅からすぐの生田緑地へ、いざ出陣です。

 フユシャクは時期がちょっと違うと、違う種類が見られるのですが、今回は圧倒的にクロオビフユナミシャクが優勢でした。「いた!」と思って駆け寄ると、どれもこれもクロオビフユナミシャク。いいかげんにしてくれ、と叫びたくなるほど、こいつばかりでした。以前来た時は、ナミスジフユナミシャクとウスバフユシャクばかりだったのに、時期が違うと、こんなにも様相が違うものなんですね。
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 これまでの出会いの場は、ほとんどが公園の木柵という味気ない場所でしたが、今回は森の木の幹で見つけることができて、ちょっと味のあるスナップ写真が撮れました。

 まずは、クロオビフユナミシャクの♂を木の幹で発見。近づいてみると、すぐ近くに♀もいました。♂♀が木の幹で同時に写真に写っているなんて、冬の虫風景としてはこの上ないシーンです。
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 ♀は羽が短くて飛べないので、最初に♀が木に登り、そのフェロモンの色香にクラクラとした♂が引き寄せられたものと思われます。♂がいなかったら、目立たない♀をみつけることはできなかったでしょう。

 同じ木には、もう1匹♂がいたので、恋の三角関係が展開されていたのでしょう。深夜の修羅場に立ち会いたかったものです。
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 この付近はクロオビフユナミシャクの発展場のようで、10メートルほどの範囲の中に10匹以上の♂が確認できました。

 ♀もあと2匹、木柵で発見。
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 フユシャク♂のたまり場である公園のトイレには、イチモンジフユナミシャクの姿もありました。
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 そして、今回はチャバネフユエダシャクには会えずじまいかと半分諦めかけて、東屋で水筒の熱いお茶など飲んでくつろいでいた時のことです。何と、何と、その東屋の中にあの神々しいお姿が。

 最初は鳥のフンのように見えたのですが、鳥のフンへの擬態と言えば、チャバネフユエダシャクの♀、ホルスタイン様の得意技です。
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 老眼と乱視の眼鏡の度がすこし合わなくなってきているので、半信半疑で近寄ってみると、おお、まさしくホルスタイン様。
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 何という強運。これまではあまり立ち寄ることのなかった東屋だったのですが、体力低下で休憩時間が長くなった昨今、休める場所があるとつい立ち寄るのが癖になってきていたのです。「絵もない、花もない、そんな居酒屋で~♬」演歌のデュエットの定番曲「居酒屋」の歌詞がふと頭に浮かんでくるような、そんなさびしい東屋で、ふくよかなホルスタイン熟女に出会ってしまう。これこそまさに虫記者の昆虫愛の力ですね。
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 しかし、ホルスタイン様がこんなところに長居しては、誰か別の人が休憩に来て、壁に寄りかかった際に、圧死してしまうかもしれません。

 ここは虫記者の名にかけても、救出しなければなりません。そっと指乗せして、近くの木の幹に移してさしあげました。
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 そして帰り道。さきほどのクロオビフユナミシャク銀座で、もう一度丹念に探してみると、チャバネフユエダシャクの♂にも出会うことができました。

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 これで♂♀そろってめでたし、めでたし。今年もいい年になりそうな予感です。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅①

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 時事ドットコムの「昆虫記者」でようやく3部作の連載を終えたタイの泰緬鉄道、エラワン、サイヨーク駆け足旅。ドットコムの記事は、旅行中に書き綴った日記を元にしていますが、一応会社の規則、常識に沿っての昆虫記、旅行記なので、内容、分量ともに、検閲および自主規制がかかっているのです。

 ここは個人のブログなので、日記の内容、順序にできるだけ忠実に、連載していこうと思います。これからサイヨーク方面への旅行を計画している方にとって、有益かもしれない(虫好きでない人には、あまり有益でなかかも)の情報も、盛り込んでいくつもりなので、爪の垢ほどでも役に立てば幸いです。

2018年6月17日(日曜)
◆出発、格安航空が似合う男
 泰緬鉄道、エラワン、サイヨークをめぐるという、メニュー満載の今回のタイ旅行。バンコク往復の航空券は、タイ・エアアジアが一番安かった。しかし、騙されてはいけない。もし、機内預け入れ荷物が別料金だったら、結局他の航空会社より高くなってしまうことがあるのだ。20キロまでの荷物が料金に含まれているかどうか、チェックしよう。今回は20キロ荷物付き、手数料、空港使用料込みで往復3万9020円が最安値だった。食事は付いていないので、栄養補助食品、つまりはカロリーメイトなどを準備しておくことにしよう。
 やはり金欠の昆虫記者には、格安航空が似合う。スーツが似合う男とか、ジーンズが似合う男とかいうのは、恰好がいいが、格安とか100均が似合う男はみじめだ。いつの日か、ファーストクラスが似合う男になりたいと思ってきたが、もはやその日が永遠に来ないことは明白である。
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 成田空港のタイ・エアアジア航空機。季節外れということもあって、乗客はほとんどがタイ人だった。こうした格安航空のおかげで、東南アジアからの訪日観光客も増えている。

◆今回の予算と費用
 サイヨークでのホテル代は5泊で税サービス料込み2万6355円。エクスペリアでの予約では、52%割引とか表示されていたが、ほか予約サイトを見ても同じような値段。52%引き前のもともとの値段を取るところなどあるのだろうかと、疑問を抱いてしまう。
 割引っていうのは、不思議な世界だ。正規の値段からの割引ということだろうが、割引以外利用したことのない人にとって、正規、正しい値段とは不当と同じ意味である。
 しかし、なにはともあれ、航空券と合わせて6万5375円。今回も何とか、10万円の予算上限をクリアできそうだ。

◆雨期も恐れるに足らず
 今回は天気予報は直前まで見ないことにした。雨期だから雨は覚悟の上だが、毎日雨ばかりの予報だったら、気分が落ち込む。早くから予報を見ると、気分が落ち込む期間が長くなる恐れがある。でも、天気予報って見たくなるものだ。見たい。でも見ない。
 もし雨ばかりでも、今回の旅行ではメリットもある。サイヨーク、エラワンは滝の名所なのだ。雨が降らなければ、滝はしょぼくれてしまう。迫力ある滝には、雨が必要なのだ。ネット上では「サイヨークへ行くなら乾期は避けるべき」とか「雨期のサイヨークは最高」とか、雨を歓迎するコメントが多い。
 滝の名所なのに、滝が最大の売り物なのに、滝が枯れていたり、申し訳程度にチョロチョロと流れていたりしたら、悲しいではないか。雨ばかりだったら、豪快な滝の写真を撮りにきたのだと思えばいい。諦めがつくではないか。そして、乾期にもう一度訪れるという手もある。
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 サイヨーク・ノイ滝。駅近の観光名所なので、休日は地元の人々の憩いの場、水浴び場、無料プールのようになってしまうそうです。こういう「静かに滝を眺める美女二人」的写真が撮れるのは平日だけ。

 航空便は、朝9時台に成田発で、現地時間午後1時台にドンムアン空港着。時差が2時間あるので、朝出発でも、午後の早い時間に着くのがありがたい。

◆リムジンタクシーなら3500バーツ、列車なら100バーツ
 予約してあったサイヨークのホテル「ホーム・フュ・トイ」までは、空港からはタクシーで3時間半ぐらいかかった。バンコクから200キロぐらいの距離がある。普通のタクシーだと2000バーツぐらいかかる計算。到着ロビーにあるリムジン・タクシー乗り場で値段を聞いてみると、3500バーツだった。
 80キロ以上の距離だと、普通のタクシーでも1キロ当たり10.5バーツの高額料金となっているので、たぶん2000バーツ以上はかかることになる。渋滞とかになると、もっと高くなる。2000キロの遠方だと、普通のタクシーは嫌がるかもしれないし。
 ならば、リムジン・タクシーでもそんなに高くない。ホテルの送迎だと6000バーツも取られるので、3000バーツ台は許容範囲と思って、清水の舞台から飛び降りる覚悟で利用した。車はトヨタカムリ。乗り心地はいい。それに帰りは列車を使う予定なので(行きは時間の関係で列車が利用できない。なにせ1日に2~3便しかないのだ)、その落差の大きさも楽しいかもと思ったのである。
 列車はナムトックからバンコクのトンブリー駅まで100バーツしかかからない。距離に関係なく、外国人は100バーツである。途中のクワイ川鉄橋で降りても同じ100バーツだ。
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 ドンムアン空港の両替所でもらったペン。何軒も並んだ両替所の中で「無料のペンをプレゼント。レートは他店と同じ」と表示した店があったので、迷わずそこを選んだ。

◆受付のかわいいお嬢さんと国際交流
 ホテルは、タイ西部サイヨーク国立公園の区域にある。チェックインした後、昆虫記者は再びチェックイン・カウンターへ戻ってきた。床に落ちていた瀕死(ひんし)のホタルの写真を撮るためである。
 チェックインの際に足元で何かがチカチカ光っているのに気づいていたのだ。。アリに襲撃されて、裏返しになったホタルが、必死に遭難信号を放っていたのだ。助け起こしてやったが、もはや飛んでいく元気もなかった。そっと、カウンターの上に置いた。このまま寿命を迎えるのだろうが、アリに巣の中に引きずり込まれて、食い殺されるよりは、いい死に方だろう。
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 ついでに、翌日からのプランを相談する名目で、受付のかわいいお嬢さんと言葉を交わす。もちろん、それは主たる目的ではない。あくまでも「ついで」である。だから、意味もなく会話を引き延ばしたりはしない。会話が長くなったのは、プランが複雑だからであって、意味もない会話をしていたわけではない。しかし、もちろん、国際交流の観点からは、たわいない会話も重要であることを付言しておきたい。
 名前を尋ねる。意味のないことではない。スムーズな会話には相手の名前を知っておくことも必要だからだ。ただし、相手がオジサンであったなら、名前を尋ねたりはしないだろう。オジサンとの間では、会話がはずむ必要はないのである。
 クン・チュー・アライ・カ(あなたの名前は何ですか)。この日のために覚えた、つたないタイ語である。何と心地よい言葉の響きであることか。まるで愛の告白シーンのようではないか。ちなみにタイ語で「アイ・ラブ・ユー」は「ボム・ラック・クン」となるらしい。私はラクーン(アライグマ)ですと言っているようで、笑ってしまうが、99.9%使う可能性のない言葉なので、笑って忘れてしまった方がいい。
 ともかく現地語での会話は、片言であっても、大切だ。もちろん、国際親善のためである。ゆっくり、しっかり発音する。彼女の頬がポッと赤らむ。いや、肌が小麦色なので、実際はほとんど分からなかったが、きっと赤らんでいただろう。
 ポム・チュー・メイ・カ(私の名前はメイです=よく聞き取れなかったが、たぶん彼女はこういったと思う)。少なくとも名前がメイさんであることは分かった。ついでに、あくまでもついでに、名前を紙に書いてもらった。これで、無料かつ、心に残る旅の土産が一つできたわけだ。
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 メイさんは素敵なお嬢さんです。親切に相談に乗ってくれます。ホーム・フュ・トイにお泊りの際は、是非声をかけてあげて下さい。

◆プラン確定、到着翌日はエラワンの7段の滝へ
 前置きが長くなったが(無駄な前置きではなく、意味ある前置きであることを強調しておく)、翌日、翌々日のプランは、メイさんらの親切な助言でおよそ確定した。メイさん「ら」となっているのは、途中からちょい悪おやじ風の色男の「マネジャー」が邪魔、ではなくて、おせっかい、でもなくて、助けてくれたからである。なにしろメイさんは若くて経験不足である。ちょっと色男のマネジャーの助けが必要なのだ。仕事の上だから仕方がないが、私生活での色男マネジャーの助けは、断固断ってほしいと思う。清純なメイさんは、こんなマネジャーのセクハラ、パワハラに屈することはないだろう。
 もちろんマネジャーも、色男であるところは気に入らないが、誠実で親切で、実に役立つ男であった。
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 ホテルからの夕暮れの風景。南国の恋が燃え上がりそうなカップル向きのホテルです。

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 ホテルの客室は昆虫記者には場違いな感じの豪華さ。ベッドからガラス越しにシャワールームの中が見えるという作りは、これまた熱愛カップル向き。

 こうして、翌日は朝8時からエラワン国立公園の7段の滝を見に行くことになった。翌々日は、泰緬鉄道の旅である。昆虫記者はもともと、逆の順番を考えていたのだが、泰緬鉄道はナムトック駅午前5時20分発の列車に乗る計画のため、「ホテルからの移動手段を今から確保するのは難しいかもしれない」とのメイさんの助言に従ったのである。マネジャーの助言ならともかく、メイさんの助言を無視するなどという、心無いことはできないではないか。

 次回は、タイで一番美しい滝との呼び声も高いエラワンの滝めぐりです。

東京で年を越すウラナミシジミ

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 12月末の江東区木場公園。ここは何と、新年までウラナミシジミの姿が見られます。
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 ミドリアムの周囲に外来のマメ科の蔓草が植えられていて、冬でも枯れないので、関東では越冬が難しいと言われ、秋に死滅拡散する姿しか見られないウラナミシジミが、成虫や幼虫で年を越しています。ここでは越冬も可能なのかもしれませんね。

 まずは成虫の姿です。ボロボロのもいますが、しっかりした羽のもいます。
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 そして幼虫。こんなに大きな幼虫はたぶん冬を越せないでしょう。
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 卵や、つぼみの中に隠れた小さな幼虫なら年始の寒さに耐えられるかも。応援したくなりますね。

久々に越冬ホソミオツネントンボと再会

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 千葉市の公園で久々に越冬トンボに出会いました。池には氷が張り詰めている1月。
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 野ざらしの状態で、枝にしがみ付くホソミオツネントンボ。一体どんな防寒対策をしているのでしょう。細身の体は、どうみても氷点下の寒さに耐えらるようにはみえないのですが。越冬する虫は体内に不凍液をため込んでるとか。でも、そうまでして成虫で越冬する意味があるのか、疑問に感じますね。

 まずは桜のひこばえの枝で一匹。
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 シデの木の細枝でもう一匹。
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 テントウムシのように集団だと、多少は暖かそうに見えますが。たった一人、吹きさらしの林の中で越冬するのはいかにも寂しそうですね。

 しかも、完全に眠っているわけではなくて、近づくと脚や目玉を微妙に動かして、見つかりにくい方向に体の向きを変えたりします。冬眠、つまり眠っているわけではないのです。もともと目を閉じられないので、眠ると言う概念自体ないのかもしれません。

 越冬中のキノカワガもいました。杉の白いカビのような、苔のようなものに紛れるように擬態していました。キノカワガは色々な体色のがいますが、ここにいたのは、ほぼ全身白っぽいやつでした。まるで自分の体色を知っていて、似たような色のところを選んでいるかのようです。
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 基本的には、地衣類などで変色した感じの幹に多いので、そういう植物の生えたところを選んでいるのかもしれません。

 桜の幹にもキノカワガがもう一匹。
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 樹木名の表示板裏には、カメノコテントウが5匹、集団越冬していました。この冬はなぜか越冬するナミテントウの姿が少ない感じです。カメノコテントウの越冬場所にはたいていナミテントウがたくさん同居しているのですが、今回はカメノコテントウだけの集団でした。こんなのを見たのはこれが初めて。
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 ササの葉の裏にはいつものヒカゲチョウの幼虫。
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 胴体に小さな紋の付いたのもいました。
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 こんな食痕のある葉の裏にいました。
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 最後は冬の代表的虫風景のヤマカマス。ウスタビガの繭です。落葉樹にこの繭(この季節のは抜け殻です)が付いていると、オー・ヘンリーの小説「最後のひと葉」のように見えますね。すべての葉が落ちたはずのケヤキの木になぜか新緑色の葉が残っている。そんな変な風景を目にしたら、それはたいていこのヤマカマスです。
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サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②

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◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅②
6月18日(火曜)
◆サイヨークとエラワンはワンセットがお得
 サイヨーク国立公園のホテルに泊まっているのに、なぜエラワンという別の国立公園に行くのか。実はサイヨークとエラワンは隣り合っており、ワンセットと考えてもいい位置関係なのだ。宿泊施設はサイヨーク側に集中しているので、エラワンはサイヨークからの1日観光とする一石二鳥プランを立てたのである。
 しかし問題は交通の便だ。カンチャナブリからならエラワン行きのバスが出ているが、サイヨークとエラワンの間には公共交通機関がない。ホテルのソンテウ(小型トラックを改造した乗合タクシー)を利用する以外に方法がないのである。
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  住み込み従業員の子供たちだろか。朝はホテルから通学用のソンテウが出ていた。

 エラワン1日観光でホテルのソンテウをチャーターすると、午前8時から5時間コースで3000バーツ。これは痛い出費だ。1バーツ3円30銭で計算すると、1万円近い。もっと安くならないか。今は6月。蒸し暑い雨期の閑散期で、ホテルの宿泊客はまばらだから、ソンテウを利用する者はほとんどいないはずだ。運転手と粘り強く、しつこく交渉したが、結局3000バーツは変わらなかった。
 しかし、チャーター時間は8時間ほどに延長できることになった。閑散期ならではの割引だ。運転手も暇なのだ。しかし、そこまで苦労して、エラワンに行く価値はあるのだろうか。それがあるのである。「タイで一番美しい滝」と評判のエラワンの滝を見ずに死ねるか。と言うほどのものではないが、ソンテウ代をけちって後で悲しい思いをするのは嫌だ。
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 しつこい交渉に根負けして割引に応じてくれたソンテウの運転手。

 翌朝8時にホテルを出発し、まずはクウェーヤイ川上流のダムで写真を撮って、9時過ぎにエラワン到着。
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◆観光客値段に不満爆発
 入場料は300バーツ(タイ人は100バーツ)、車は+30バーツ。東南アジア恒例の観光客値段である。まあ、海外旅行できる外国人は、みな金持ちに分類されるのだろうから、高い料金を請求して当然ということなのだろう。しかし、途上国から来た観光客も、同じ観光客値段を要求されるのである。タイ人の観光客で、昆虫記者より高収入の人もたくさんいるに違いない。不条理だ。
 何だか、ぼられている感じがしないでもないが、これは公的機関がきちんと決めた差別料金だから、払わないといけない。
 普通のタクシーとか、飲食店とかでも、観光客はよくぼられるわけだが、そこには、こうした公的観光客値段が影響しているかもしれない。公的機関が3倍の料金を取るのだから、何でもかんでも、観光客向けは、本来の値段の10倍ぐらいふっかけるべきだと考えてもおかしくない。
 いっそ、自国民はただにすれば、すっきりするような気もする。しかし、そうなると、観光地は地元民であふれかえり、外国人観光客が、あまりの人出にうんざりしてしまい、観光地の人気が落ちることになる。
◆日本は外国人観光客を優遇し過ぎ?
 地元割引という考え方ならば、日本の観光地も外国人観光客に、観光客値段を設定し、日本人には安くするべきではないのか。日本政府は、外国人観光客を増やそうと必死だが、観光と無関係の地元の人々や、日本の観光地を訪れる日本人にとっては、あまりに多い外国人観光客は、ありがたくない。日本もこれだけ外国人観光客が増えたのだから、その分、迷惑を被る日本人観光客に、いくらか還元してくれてもいいのではないか。
 箱崎の東京シティーエアターミナルから成田までのリムジンバスは、外国人が1900円、日本人が2800円と、外国人を優遇していた。これはおかしくないのか。日本以外にも、外国人に対してこんな大幅割引をしている国はあるのだろうか。
 しかし、入場料の外国人差別に怒って帰るわけにもいかないし、地元経済に貢献するのも嬉しいので、喜んで(実は渋々)330バーツを支払う。こんなところで、もめて、時間を無駄にするわけにはいかないのだ。昆虫記者には、どうしても急がないといけない理由がある。
◆エラワン観光に出遅れは禁物
 昼時のエラワンは、地元民を中心にともかく人出が多く、大混雑のピクニック広場状態になるという話を聞いていたからである。
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 昼時になると、団体客が次々にやってくる。

 特に土日、祝日のエラワンはすごい人出になるという。さらに4月13~15日のタイの旧正月を祝うソンクラン(水掛け祭り)の際は、本当にお祭り騒ぎになるらしいので要注意だ。祭りは無礼講。バケツで水を掛け合ってバカ騒ぎするには、水に囲まれたエラワンが最高というわけだ。もちろん、バカ騒ぎがしたいという人にとっては、ソンクランの時期がベストシーズンになるので、そういう人は是非トライして、どれほど破廉恥な状況になったか報告してもらいたい。
 あまりにも破廉恥でとても写真など載せられないという状況ならば、昆虫記者も事件記者としての純粋な義務感から現場を視察したいと思う。
 しかし、美しい滝の風景とともに、水辺の蝶(チョウ)を撮るのが、今回昆虫記者に与えられた崇高な任務である。観光客がドッと繰り出してきてからでは、水辺の蝶は追い散らされてしまうだろう。静かで美しい滝の風景も、「観光地は今日も大賑わい。子供たちの歓声が響き渡っていました」のニュース映像のようになってしまう。
静かな美しい滝、水辺で戯れる蝶に憧れるなら、平日の朝を狙うべきだ。タイでは6月には祝日がないから、6月はタイ人にとって観光のオフシーズンと思われる。去年カオヤイ国立公園に行ったのも6月だったが、ホテルはガラガラ、公園内の宿泊施設も閑古鳥が鳴いていた。狙い目は6月の平日の朝。これで決まりだ。
◆完全に出遅れ
 ホテルで尋ねた時には、エラワン公園の開園時間は午前9時と聞かされた。車で1時間ほどの距離なので、8時ごろ出発するのがいいだろうということになった。しかし、実際には、開園時間は午前8時だったのだ。完全に出遅れた。
 8時出発を提案したのは、ホテルの色男マネジャーだった。許せないぞ。蝶が撮れなかったらお前のせいだ。もし、これがメイ嬢の提案だったら、多少の出遅れは全然気にならない。笑って許せる。もしメイ嬢が涙を流して「ごめんなさい」なんて謝ってくれたら、やさしく肩を抱いて「君に涙は似合わないよ」なんて、タイ語で言ってみたいものだ。
 まあ、それはともかく、エラワンの一日は短く、午後3時ぐらいから、一番上の段か順に閉鎖され、午後4時半には完全に閉園になるというから、エラワンへのお出かけは早い方がいい。
◆タイのパムッカレ
 エラワンといえば、滝である。エラワンの滝は、エラワン国立公園の代名詞でもあるのだ。「タイで一番美しい滝」との賛辞が、ネット上にあふれている。当然期待してしまう。ネット上の写真は、素晴らしい景観だ。美し過ぎて声も出ないようなものもある。「タイ」「滝」のキーワードでネット検索すれば、トップからズラリとエラワンの滝が並ぶ。石灰岩の岩肌を滑らかに流れ落ちる滝は、極めて女性的だ。水には石灰が溶けて、滝つぼはエメラルドグリーンに彩られている。
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 昔々、セブンスターというたばこのCMで、トルコのパムッカレの石灰棚の風景を見た。純白の石灰岩が形作る棚田のような風景だった。棚にたたえられた水は、ある時は空を映して青く、ある時は石灰の白い粉を溶かしてエメラルドグリーンに輝く。その上空を飛ぶジェット機の後ろに白い飛行機雲が一筋描かれていく。実に感動的だった。
 エラワンの滝も同じ石灰棚。もしかして、エラワンは「タイのパムッカレ」なのか。日本のベニスとか、日本のスイスとか、そういう例えは、あまり信用できないと思うものの、果たして「タイのパムッカレ」はいかに。
 7段の滝は1500メートルの流れの間に点在し。カンチャナブリでは最大級らしい。ツアーだと、駆け足で2時間ほど。ソンテウの運転手に尋ねたところ、最上段まで行っても1時間ぐらいだという。なんだ、全く楽勝ではないか。
 スタートが遅れた割には、比較的すいている。2段目までは、泳いでいるタイ人がいたが、その先は、まだ人が少ない。無人の滝つぼもあり、人がいても、西洋人カップルが1組ぐらい。なかなかに美しい。これなら「タイのパムッカレ」と呼んでもいいだろう。
 やはり、6月の平日の朝の選択は正しかった。もちろん、公園紹介の公式ページにある写真は、最高のタイミングで、最高の技術で撮ってあるから、写真そのままの天国のような景観を期待してはいけない。ああいう奇跡のような写真は、タイの観光当局と、共犯のカメラマンが仕組んだ詐欺だと思っておいた方がいい。
◆イナズマチョウとビキニの魅力
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 赤や黄色の派手派手しい蝶もいいが、こういうシックな美をたたえた蝶もいいものだ。

 肝心の蝶はというと、最初に出会ったイナズマチョウのオスが、ドキッとするほどきれいだった。派手ではないが、これまでに撮ったどのイナズマチョウもかなわないシックな美しさ。イナズマチョウをあまりきれいと思ったことはなかったが、見直した。こんな輝きを見せるときもあるのだ。
 そしてもう一つ、昆虫記者の目を引き付け、心をときめかせたのが、観光客の水着姿である。
 観光客がエラワンを訪れる最大の目的は、水着になって、滝つぼの池で水浴を楽しむことである。熱帯の日差しの中、清流での水浴。しかも、背景はタイでナンバーワンの美しさを誇る滝である。国立公園としては、カオヤイに次いで2番目に人気のスポットであり、泳げる滝がメインの観光資源であるため、ここを訪れる西洋人の大半は水着を着こんでいるのだ。
◆衝撃のビキニ禁止令
 ただし、残念な点が一つある。滝から滝への遊歩道を歩く際などは、ビキニなどきわどい水着姿は禁止らしいのだ。もちろん昆虫記者の目的は水辺の蝶であり、水辺の水着女性などではないから、ビキニなどどうでもいいのだが、やはり残念だ。
 2012年に、国立公園局が、テストケースとしてエラワン国立公園でのビキニ禁止の通達を出したのである。地元紙は「国立公園でビキニ禁止令」と報じた。「ビキニはだめよ」の看板もどこかに立てられているらしい。
 しかし、完全な禁止ではないようで、記事で紹介された公園関係者のコメントによれば、水泳可能な滝つぼでのビキニ姿は容認されているという。
歩道を歩く際には、ビキニの上に何か羽織ればいいということのようだ。
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 そんなことを調べるのは下心があるからだろうと勘ぐる向きもあるだろうが、どんな取材でも万全の準備を整えるのが記者というものだ。
 ビキニ禁止の理由は、観光客の安全確保と、タイ文化の尊重。安全確保というのは、毒虫やヒルに襲われる危険を減らすという意味らしい。文化尊重というのは、タイの常識に従うということだ。確かにエラワンを訪れるタイ人女性の服装は、しとやかで、慎み深いものが多い。泳ぐときもあまり肌を露出させない。
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 地元タイ人女性は水着でも露出控えめ

 しかも、エラワンは神聖な場所であり、僧侶もよく訪れる。エラワンの名は、ヒンズー教の神話に登場する三つの頭を持つ白いゾウに由来するという。7段のうち、一番上の段の滝が似ているらしい。ヒンズー教と仏教は違うではないかという疑問もあるだろうが、タイではかなり混然一体化している。仏教に登場する神々はたいてい、ヒンズー教に由来しているのである。
◆首なしマネキンの恐怖
 また、遊歩道のあちこちで、きらびやかなドレスや装飾品が飾り付けられた大木を見かける。美しく着飾った首なしマネキンもあって、まるで心霊スポットのようだ。夜に訪れたらさぞかし恐ろしい光景だろう。
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 しかし、これは大木に住むと信じられている木の妖精に捧げられたもの。妖精を喜ばせ、幸運を授かるために、人々が貢物を贈っているのである。
 つまり、きわどいビキニ姿で道を歩くことは、仏教王国タイの公序良俗に反し、神聖な場所を汚し、妖精を怒らせるということだ。昆虫記者にとっては、きわどい水着は嫌悪感ゼロで、むしろ好感度が高いのだが、国によって、また、人それぞれに物の感じ方は違うのである。
◆ビキニ規制の実態は
 そして実態はどうかというと。「オオッ。けっこうきわどいじゃないか」。
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 西洋人女性たちは国立公園局の通達など全く気にせず、堂々とビキニ姿で遊歩道を歩いている。それをとがめる人はだれもいない。規制は有名無実のようだ。もしかすると、心の広い昆虫記者のような人々の間でビキニ擁護運動が展開され、規制が覆ったのかもしれない。
 また目の前をビキニ姿の西洋人女性が通り過ぎていく。「やめてくれ、気が散るぞ。虫なんか撮ってられないぞ。でも嬉しいぞ」。


サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③

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◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅③
◆エラワン7段の滝早分かり
 ここで、エラワンの7段の滝の簡単な説明をしておこう。何せ「タイで一番美しい滝」と書いてしまった責任がある。蝶とビキニの話だけでは「滝はどこへ消えてしまったのか」と、タイの観光当局から激しい批判を浴びることになりかねない。七つの滝は、それぞれに趣が異なり、一つ一つに特徴を示す名前が付けられている。
 滝の名前はタイ語と、その音を表すアルファベットでしか表示されていないので、英語のサイトなども活用して、日本語で説明を付けることにした。何と親切な対応なのだ。ただし、訳が間違っていても、一切責任は取らない。
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 「簡単な説明」と書いたが、これだけ詳しい日本語での説明は、たぶんほかにはないのではないかと思う。さすがは、マニアックな昆虫記者。「そんな説明、何の役に立つんかい」という声もあるだろうが、全くその通りだ。覚えたところで、嫌われ者の「うんちくおやじ」になるだけである。
 一番下の滝は「LAI・KUEN・RANG(元に戻るという意味らしい。静かな川の流れに戻る場所ということだろう)」。
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 散策路のスタート地点から500メートル。木陰になっていて涼しいが、水深が浅いらしく、泳ぐ場所ではないようだ。朝は水浴している人はまだ、誰もいなかった。絶景独り占めである。

 石灰棚の上を緩やかに見ずが流れ下る様子にうっとり見とれるには、このあたりが最適。
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 この1段目へ向かう途中で、左の森の中へと入っていく道があった。「美しい滝なんかどうでもいい、猛暑の中、汗みどろで虫探しだけを貫き通すのだ」という見上げた根性の人は、そちらの道を行くのもいいだろう。
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 「虫捕りなら、こっちの道がいいよ」と、脇道へ誘い込もうとする大型カメムシ。

 この周辺にはとてつもなく長い散策路もあるらしいので、挑戦する価値はある。ただ、方今音痴の人は、行方不明になる恐れが大きい。滝沿いの道以外を歩いている人はほぼ皆無なので、救助は期待できない。

◆人の皮膚を食べる魚
 2段目の滝は「WANG・MACHA(魚のいる場所といった意味。文字通り魚が多い)」と呼ばれる。スタート地点から600メートル。1段目と比べて滝つぼが深く広い上、日当たりもいいのでタイ人に大人気で、既に地元の人たちが泳いでいた。泳げない人には、ライフベストを貸してくれているようだ。
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 ここは人も多いが、魚も多い。多いというか、多すぎる。
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 1段目の滝の滝つぼを覗くと、いるわ、いるわ、すごい数の魚。恐怖を感じるほどだ。この大きいのは、ドクターフィッシュではない。日本のハヤ(ウグイ)に似た魚だった。

 そこには恐らく相関関係がある。ここの魚の主食は人の皮膚らしいのだ。エラワンの滝つぼには「ドクターフィッシュ」がいると紹介されていることが多いが、日本の水族館や入浴施設などで活躍しているつくだ煮の小魚程度の類いとは種類が違うようで、かなり大きい。ドクターフィッシュと言えば、足裏の角質などを食べて、美容に貢献してくれる働き者。足裏の水虫まで食べてくれれば、薬用効果も期待できる。
 公園の規則では、魚への餌やりは禁止されている。しかし、人間の皮膚は例外。ここの魚にとっては、人間自体が餌になるのである。魚が好きな人は餌になるために水に漬かった方がいい。そうなのだ。魚たちは今か今かと待っているのだ。美しい水辺の風景につられて人間たちが水の中に入ってくるのを。飛んで火にいる夏の虫、足裏の水虫というわけだ。
 昆虫記者も、魚は嫌いではないので、人肌のフィーディング(餌付け)に挑戦。浅瀬に手を突っ込んでみたら、すぐに小さい魚が寄ってきた。10センチぐらいのも多くいて、かみつかれるとかなり痛い。
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 これがいわゆるドクターフィッシュらしい。ガシガシ噛みついてくるので、結構痛い。

 美容専門の魚としては「大き過ぎだろ」と言いたい。角質はもちろんだが、子供の足の小指ぐらいは食べてしまいそうだ。
 人間と魚の共生、自然と人間の調和がここにある。人は景色を楽しみ、余分な角質を掃除してもらい、足裏をコチョコチョされる快感を得る。
 おっさんの足と金髪美女の足、どちらが好ましいか。人間界では議論の余地がないが、魚たちは公平である。容姿差別など存在しない。むしろ、きれいに手入れされた美しい足より、長年ほったらかしで、あかのたまった足の方が食べ応えがあり、おいしいのではないか。
 周辺には30センチぐらいの魚もうようよ泳いでいる。まさか、指を食べには来ないだろうとは思ったが、痛さと恐怖に耐えられず、すぐに手を引っ込めた。それにしても、人の皮膚やあかばかりを食べている魚は、焼き魚にしたらどんな味がするのだろうか。かなり不気味だが、ちょっと興味がある。
 汚いおじさんの足裏を掃除した魚だと抵抗感があるが、若くてきれいな女性の肌を掃除した魚となれば、がぜん食べてみたくなるのだ。

◆この先は食料持ち込み不可
 2段目の滝より上は食料持ち込み不可で、飲み物は1本当たり20バーツのデポジットを取られる。ボトルのポイ捨てをさせないための策のようだ。持ち込むペットボトルには、マジックで番号が書き込まれ、そのボトルを持ち帰るとデポジットが返金される仕組み。デポジットが惜しければ、ボトルを捨てないというわけだ。
この先はだんだんと傾斜が急になってくるため、さらに上に進む人は、ここでいったん腹ごしらえをしておいた方がいい。
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 水辺のお出迎えはいつものヤツボシハンミョウ。

 ピクニック気分のタイの人々はたいてい、2段目の滝までしか行かない。水遊びが目的なら、ここで十分であり、この先はつらい山道を食料補給なしに登らなければならないからだ。ところが、なぜか西洋人はずんずんと上流を目指す。開拓者精神なのか。彼らは歩くのが好きだ。しかも、疲れを知らない。すぐに座りたがる、寝転びたがる日本人とは大違いだ。家の中でも靴を履いている人々と、畳の上で胡坐をかく人々の違いだ。

 橋で流れを渡って3段目の滝へ向かう。3段目は「PHA・NAM・TOK(岩壁の滝)」。スタート地点から700メートルの距離だ。川の流れが突然崖下に崩れ落ちるような、極めて滝らしい滝である。
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 滝の奥に空間があって、裏側から滝を眺めることも可能だ。滝の下の岩に座って、滝行をすることもできるという。ここもまた、おいしそうな魚が山ほどいる。
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◆鬼女の巨大な乳房
 4段目は「OK・NANG・PHEE・SUE(鬼女の胸)」。タイの叙事詩に登場する「PHEE・SUE・SAMUT」という鬼女の胸を意味する名の滝らしい。確かに二つの丸い岩が、巨大な乳房のように見える。スタート地点から1050メートル。つるつるした丸い岩を利用して観光客が滝滑りを楽しめるところだという。
 この鬼女は、美女に化けてタイの王子をたぶらかし、子供をつくったという。美女の乳房と思って岩を滑り下りるのは快感だろう。しかし観光客が滝つぼに落ちた途端、美女は恐ろしい鬼女に戻って、観光客を水底に引きずり込んで食い殺すかもしれない。
 この鬼女の身の毛もよだつ姿を見たい人は「PHEE・SUE・SAMUT」と入力して画像検索してみるといい。その姿を知ってから滝滑りをすれば、涼しさが一層増すだろう。
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 特定趣味の人にはたまらない巨大な乳房。ただし、不謹慎な欲望を抱くと鬼女に呪い殺される恐れもある。

 このように、それぞれの滝にそれぞれの楽しみ方がある。エラワンを満喫したい人には、すべて試してみることを勧める。

 5段目は「BUAR・MAI・LONG(決して退屈しない場所)」。スタート地点から1550メートル。いろいろな姿の滝が混在していて見飽きないということか。
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 近くに蝶が群れている場所があった。世界最小のかわいいアゲハチョウ「スソビキアゲハ」も何匹かいて、心が和む。
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 蝶と魚がにらめっこをしている場面にも出くわした。雷魚のような貪欲そうな顔をした魚が蝶をにらんでいる。水を飲みに来た蝶が、もう一歩近づいてきたら、水面からジャンプしてパクリと一のみにしようと狙っているのかもしれない。
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 1段目の滝の手前と、この5段目周辺が、一番蝶が多い。歩くことが生きがいのような西洋人に負けじと、むきになって山道を登るよりも、このあたりで、のんびりと時間をつぶすことをお勧めしたい。午前中にここで、もっと蝶の写真を撮っておけばよかったというのが、今回の反省点である。
 滝と蝶のおもてなしは、確かに飽きることはないが、この辺りから疲れがたまってくる。体力の限界は近い。
◆森のある場所に一人たたずむ女性
 6段目は「DONG・PRUK・SA(森のある場所)」。スタート地点から1750メートル。緑に囲まれた、まさに森の中の滝だ。
 木漏れ日の中にシャワーカーテンのように水が降り注ぐ。西洋人女性が一人、滝の前に立っていた。「絵になるなあ」。これが昆虫記者だったら「邪魔だよ邪魔、早くどいて」となるのに。
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 ここにイナズマチョウのメスがいた。ヤマオオイナズマだろうか。オスとは全く違う姿で、夜空に星をちりばめたような模様は、これもまた見事な図柄だ。最初に見たオスとカップルになったら、見事な取り合わせだろう。オスとメスで模様が大きく異なる蝶は少なくないが、たいていはどちらか一方が美しく、他方は地味という組み合わせだ。まるで別種のようで、それぞれに美しいのは、神のみぞなせる業だ。
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 たぶん、この滝の少し下だったと思うが、階段状になった小さな滝の連続を、まさに階段のように歩いて登れるところがあって、この階段を上って6段目に行くこともできるらしい。
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 ただし、水量の多い時はかなり危険だと思う。本格的に滝の写真を撮りにきたと思われるマレー系のカップルが、この滝の階段を上っていた。マレー系の女性は全く肌を露出させていない。かなり暑苦しそうだ。西洋人女性のビキニ姿を何人も見てきた後で、何か不思議な気がする。この滝で十分に休んでおかないと、次の7段目に進むのはきつい。

八王子神社初詣の目的はアサギマダラ

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 今年も初詣は東京都八王子市の八王子神社。世間一般の初詣の定番神社ではありません。なので、初詣客は全くいません。牛頭天王(ごずてんのう)の八人の王子、つまり八王子を祀った神社なので、まさに八王子市民の氏神様のような神社ですが、高尾駅から登山口までのバスが土日しか出ていないという不便さから、冬のこの時期に訪れる人は数えるほど。この日朝のバスも、終着駅の八王子城跡まで乗ったのは虫記者1人だけでした。
 つまり、この神社の神様は八人の王子なわけですが、虫記者にとっては、この神社の神様はアサギマダラ様です。

 山頂の神社へと続く階段脇にあった小さなキジョラン。その葉には、神様が食べた痕跡の丸い穴。
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 葉裏を覗くと、やっぱりいました。アサギマダラの幼虫です。この季節としてはかなり大きな幼虫です。こういう大きいのは、生き残りが難しいようで、2月ごろに遺体でみつかることが多いのはこういうサイズの幼虫です。
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 先ほどの階段を上ったことろにあるこれが、八王子神社です。毎年きちんとお参りしているので、毎年きちんとアサギマダラの幼虫に出会うことができます。
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 高尾山名物のテングもいます。
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 かわいいお地蔵さんも多い。
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 天使の羽毛のようなものがたくさん落ちています。これがキジョランの種ですね。
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 もっとずっと小さい、孵化後間もないような印象の幼虫が冬を越すのに都合がいいようです。
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 こんな感じでか噛み噛みした跡が新鮮で、摂食阻害物質の白い液の痕跡がはっきりしている丸い食痕があれば、ほぼ確実に近くに幼虫がいます。
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 幼虫を正面から見ると、まさに頭に牛のような大きな角の生えた牛頭天王のお姿ではありませんか。この地のアサギマダラの幼虫は、牛頭天王の生まれ変わりなのです。手を合わせて拝まずにはいられません。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅④

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◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅④
◆見逃せない最後の7段目の滝
 エラワンの滝の最後の7段目は「PHU・PHA・ERAWAN(エラワンの岩壁)」。スタート地点から2000メートル。流れを渡り、急なはしごを何本も登って、何とか滝にたどり着いた。エラワンの滝とは、この7段目のことでもあるので、ここまで来なければ、エラワンを語ることはできない。
 別にエラワンを語らなければならない義務はないので、途中でリタイアしても全く構わないのだが、入場料と駐車場代、計330バーツを払わされた外国人観光客にとっては、7段の滝の一つ一つに47バーツの価値があるのである。一つ見逃せば、47バーツの損失だ。
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 ここがトレイルの終点。途中で昆虫記者を苦も無く抜いていった憎き西洋人たちがここに集合していた。

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 川沿いで見かけることが多い三日月形のオナガアカシジミ。

 最も人が多かったのが、この7段目だ。運動不足の昆虫記者は息を切らせながら、虫を撮りつつ、ゆっくり登ってきたので、多くの西洋人たちに途中で抜き去られた。その西洋人たちが全員、ここに集結していたのである。西洋人たちもまた、47バーツが惜しかったに違いない。やはりみな、元を取ろうと考えているのだ。

神聖な白いゾウを水着の尻に敷く
 この滝の中には、ヒンズー教の神話に登場する三つの頭を持つ白いゾウ「エラワン」に似た岩が見えるらしい。しかし、信仰心が希薄で邪念ばかりの昆虫記者には、白いゾウの姿はどこにも見えず、岩の上の水着の女性たちだけしか目に入らない。白いゾウを見つけられなれば、何のためのエラワンなのか。詐欺で330バーツをかすめとられたようなものではないか。
 だが、しばらくして、ふと気付いたのである。「もしかすると、水着の女性が座り、子供たちが踏みつけにしているあの丸い岩の連なりこそがゾウの頭ではないのか」。絶対そうだ。見れば見るほど、禿げ頭の連なりに見えてくる。
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 右側の三つの丸く白い岩の連なりが、三つの頭を持つ神聖なるエラワンの白象の頭部分ではないのか。一番下の頭は、水着美女2人の尻に敷かれているし、一番上の頭は水着の子供たちに踏みつけられているように見えるのだが、それでいいのだろうか。

 もしそうなら、神聖なるエラワンの上にお尻を乗せたりしていいのだろうか。まあ、タイではゾウは乗り物の一種でもあるし、神様も水着姿のきれいな女性を頭の上に乗せるのは嫌ではないだろうから、おとがめはないのかもしれない。
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 明るい陽光が似合うキンミスジ

◆たるんだ中高年には厳しい道のり
 1時間で登り切れると思っていたのに、実際には9時半スタートで、7段目到着は昼頃になった。何と2時間半もかかったことになる。筋肉プヨプヨの中高年昆虫記者は、トレイルランナーのように山道を駆け抜けることはできないのだ。
 4段目までは楽々。5段目は少しきつい上り階段が多くなるが、それでも余裕だった。問題はそこから先だった。6段目、7段目を目指す道のりは、ロッククライミングとボルダリングと沢登りと、踏み台昇降を組み合わせたようなコース。サンダル履きでは、かなり厳しい。軽装でやってきた肥満気味の西洋人女性が途中で息を切らし、死にそうになっていた。

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 中高年にとっては、死の上り坂

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 インディージョーンズ風の危険な岩登りも経験できる。


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 体重制限がありそうな今にも崩れそうな階段。

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 一人瞑想する男。仏陀かお前は。

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 「瞑想する男に迫る毒グモ」という設定

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 「瞑想する男に襲い掛かるコモドドラゴン」という設定。本当はおとなしいミズオオトカゲ

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 大きなフグリを誇示するマッチョなオス猿

 マレーシアのタマンネガラでは、水辺での、まったり虫撮りの味をしめた。熱帯の水辺の快楽。ここもまた、まったり派のための場所に違いないと思ったのだが、大間違いだった。タマンネガラは緩やかな川沿いの道だったが、ここは滝沿いの険しい(昆虫記者にとっての話です。健康な若者にとってはたぶん朝飯前です)道なのだ。
 昆虫記者のような、運動不足、虚弱体質の中高年にとっては、上り切るだけで大変なのだ。まったりしている余裕など全くないのだ。
 しかし今回のタイ旅行では、多少なりとも厳しい道のりは、ここだけ。何が何でも達成するぞという意気込みで臨んだのだ。旅の実質初日。これをやり切らなかったら、今後の士気が失われる。何事も達成できないダメ人間、ダメ昆虫記者である。
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 たぶんマルバネワモン。ワモンチョウの仲間は木陰に多い。

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 チビイシガケチョウの仲間

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 ロクスシロサカハチシジミ 

 体力に自信のない中高年が、すべての滝を制覇し、なおかつ、蝶の写真もじっくり撮りたいというなら、朝8時の開園と同時に散策を開始し、各滝ごとに休憩して、水に足を浸して涼を取り、ビキニ姿で目の保養をしながら蝶を撮り、丸一日ここで過ごすつもりで臨んだ方がいいだろう。きっと、一日中いても飽きないだろうし、滞在時間が長ければ長いほど、330パーツのお得感が増すだろう。

◆帰りの滝つぼは市民プール状態
 帰り道。どの滝にも行きと比べて、人がずいぶん増えている。平日でも昼頃になると、団体客が大勢繰り出してくるようだ。行きに蝶の水飲み場となっていたような場所も、人々が占拠して、蝶の姿は見えなくなっていた。蝶を撮るなら人の少ない朝という戦略は、まずまず成功だった。道端の蝶も、帰りにはほとんど見掛けなかった。
 そして、タイ人に1番人気の2段目の滝に戻ってきた。地元の人々であふれ返り、周辺にはレジャーシートが敷き詰められている。これが土日だったら、一体どんな光景になるのか、恐ろしくなる。朝は「タイのパムッカレ」だった滝つぼは、午後には大にぎわいの市民プール、公衆浴場と化していた。
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 エラワンの滝に関するネット上のどの記事を読んでも、「思っていたのと違って、すごい人出だった」と書いてあった。それがこの光景なのだ。地元の小中学生のグループが来ていることも多いようだ。レジャーシート敷きまくり、お弁当食べまくりでわいわい、がやがや。午後のエラワンは、全然秘境ではない。日本で言えば、袋田の滝のような感じだ。違うのは、みんなで滝つぼに入って遊べること。遊園地的なにぎわいである。すさまじく大衆的な滝だ。まるでディズニーランド、ディズニーシーのようではないか。子供たち、若いカップルたちが、はしゃいで水をかけ合っている。
 「息をのむほど美しい大自然に囲まれ、滝のマイナスイオンを胸いっぱいに吸い込んで、澄み切った心で静かに虫を撮る」。そんなことは、たとえ平日でも、昼時のエラワンで期待してはいけない。「これではとても蝶の写真なんて撮れないな」と諦めかけたその時だった。レジャーシートの空白地帯に、黒いアゲハの仲間の群れが見えたのである。

◆人込みの中を飛ぶルリモンアゲハ
 ルリモンアゲハも2匹混じっている。そうなのだ。蝶の中には人の汗や人の食料・飲料のおこぼれに群がる浅ましい連中もいるのだ。2段目の滝の周辺は飲食自由だから、何かおいしい液体でもこぼれているのだろうか。
 地面に群がる蝶を撮った。「なんか違うな。こんなのを撮りに来たはずじゃないのに」。でも、蝶は蝶である。
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 日本人は「神聖な滝」と聞くと、つい静かな場所を想像してしまう。かの剣豪、宮本武蔵も滝に打たれて修行し、剣の極意を得たと言われているし、滝行で罪やけがれを洗い落とそうとする人もいる。
 仏教の盛んなタイだから、神聖な場所には浮ついた気持ちで臨んではならないと、気を引き締めていたのだが、どうやらタイの庶民は神聖な場所や神仏との接し方が日本人とは違うようだ。にぎやかな日常生活の中にこそ、神仏が存在しているのだ。
 目が慣れてくると、「こういうのもいいな」と思えてくる。自然の造形そのままの滝つぼで思いっきり遊べるのは、うらやましいと思えてくる。これもまた、神聖な滝の楽しみ方の一形態なのだ。
 エラワンに秘境、深山幽谷を期待してはいけない。聖なる地を、日本人的に静かに味わうのが、必ずしも正しいとは言えない。タイの人々には、タイらしい楽しみ方があるのだ。滝つぼに響き渡る歓声の中で蝶を撮っている間に、そんな気分になってきた。

 ルリモンアゲハは、人が至近距離に迫ると飛び立つが、しばらくするとまた戻ってくる。かなりの根性だ。毎日のことで慣れてしまったのだろうか、警戒心が薄い。
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 あこがれのルリモンアゲハも大衆的な蝶に成り下がっていた。

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 朝方の静かなエラワンの滝、人気のない水辺で戯れる蝶もよかった。それとは対照的に、昼時のにぎやかなお花見気分のエラワンの滝、レジャーシートの間を飛び回る蝶もまた捨てがたい。一粒で2度おいしいアーモンド・キャラメルのようなものである。エラワンの滝は、登りと下り、それぞれに違った味をかみしめられる、まか不思議な場所であった。
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 シロオビアゲハのお尻の方にいる小さなネッタイタマヤスデが、おまけのお菓子のようでかわいい。

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 オナシモンキアゲハ。

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 ベニモン型のシロオビアゲハの♀

 エラワンの滝を午後2時ごろに後にして、ホテルに戻る途中にあるサイヨークノイ滝に寄ってみた。乾季のサイヨークノイ滝は、チョロチョロの流れで、みすぼらし眺めだが、さすが雨季なので、まずまずの水量があって、そこそこの迫力だった。平日なので、人でもそれほど多くはない。大通り沿いにあるので、近隣のタイ人にとっては、家族総出で弁当片手に出かけるお手軽なピクニックに最適の場所である。休日に見に行くと、ちょっとがっかりするかもしれないので、昆虫記者が撮った素晴らしい写真に感動して、あまり期待しすぎないように。
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 ここには、タイ国鉄ナムトック線の終着駅、ナムトック・サイヨークノイがあるのだが、この駅が利用されるのは土日だけ。平日は、一つ前のナムトックが終点となる。だから、線路上を歩いても安全だ。後日この線路を歩いてみようと思う。

春近し、テングチョウがお目覚め

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 1カ月前とはまた違うフユシャクが見られるかもと思って、再び向ケ丘遊園駅から生田緑地へ。
 そうしたら、まず出てきたのは、蛾じゃなくて蝶。もう春が近いんですね。越冬から早めに目覚めたテングチョウが、日光浴していました。
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 テングチョウが飛んでいたのは、こんな風景の中。
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 フユシャク探しをしていると、寒さが身に染みてきますが、日光浴中の蝶を目にすると、春の日差しの温かさを感じます。人間の感覚は不思議なものです。
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 テングチョウですから、どれほどテングなのか、その鼻の長さをしっかりと写真に収めたいものです。
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 なかなかの長さですね。この鼻はパルピとか下唇髭とか呼ばれている器官ですが、一体何の役に立つのかよく分かりません。でも何となく、高速で飛ぶ戦闘機の先端のようで、格好いいですよね。何らかの感覚器官としての役割があるのかもしれませんが、高速飛行の際の空気抵抗を減らすため、なんていうのも夢があっていい答えかもしれません。

 ツバキの葉裏には、ウラギンシジミの姿もありました。これも、もうすぐ越冬から目覚めるのかも。
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 メジロとか、コゲラとか、鳥の姿も何だか春めいて見えます。
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 でもまだ、季節は冬。ちゃんとフユシャクの姿もありました。
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 ナミスジフユナミシャク

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 ウスバフユシャク

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 たぶんシロオビフユシャク

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 ナミスジフユナミシャクの♀かな。でも雰囲気がちょっと違うような。

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 これもフユシャクの♀ですが、種類は不明。
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異形の蛾フサヤガ

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 春が来たと思ったらまた真冬に逆戻り。東京も窓の外は雪景色です。虫記者のような中高年もつらいですが、越冬中の虫もつらいことでしょう。
 
 外に出られないので、今回は1月半ばに見つけた越冬中の変な姿の蛾、フサヤガです。八王子霊園近くを散策中に見つけました。久々の嬉しい出会いです。

 苔だか、ゴミだか、何だか分かりませんが、何かに擬態しているのでしょう。ともかく、あまり虫らしくは見えませんね。
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 一見きたならしい感じですが、指乗せしてみると、かなり芸術感のある姿です。
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 正面から、横から、いろいろな角度から見てみても、実に不思議な姿です。
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 越冬中の虫をもう一つ。常連のアカスジキンカメムシ幼虫です。常緑樹の木の葉の中で越冬しているのを見つけたのは、もしかしたらこれが初めてかも。ツバキの葉が毛虫やクモの糸で丸まった中にいました。こういう場所には、真冬に色々な虫が隠れていますね。
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 今回の場所はアカスジキンカメの冬の定宿と思われます。このツバキの上には、大きなコブシの木が枝を広げていました。コブシにはよくアカスジキンカメがいます。春からの活動シーズンには、コブシの若芽や実から汁を吸って、冬は下のツバキで越冬するという理想的環境。

 初夏になったら、ここのコブシで成虫を探してみたいと思います。でも外は吹雪。暖かい季節はまだ遠いですね。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑤

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◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑤
6月19日火曜
 ◆泰緬鉄道で戦場にかける橋へ
 タイのクウェー川には、今も旧日本軍が建設した「戦場にかける橋」クウェー川鉄橋があり、タイ国鉄の南本線、ノーンプラドック=ナムトック支線の列車が橋の上を通っている。戦時中の日本軍の物資輸送路として、突貫工事で完成させた泰緬鉄道。ビルマ・シャム鉄道の一部は、名前を変えて、今も現役で人々を運んでいるのである。
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 かつての戦場にかける橋は、今では一大観光名所。大勢の観光客と、少数の鉄道ファンと、たった一人の昆虫記者の夢のかけはしとなっている。

 普通の観光客はバンコク(トンブリー駅)から西進し、クウェー川鉄橋駅へ向かうのだが、昆虫記者は支線の西端に近いナムトック駅から東進し、鉄橋を目指す。なぜなのか。答えは簡単である。虫の少ない大都会のバンコクではなく、虫の多いジャングルが広がるナムトック側に宿をとっているからである。
 それにバンコクからカンチャナブリまでの車窓の眺めは、取り立てて素晴らしいものではない。景色がいいのはカンチャナブリから先、ナムトックまでだ。この区間の列車旅を堪能したいなら、カンチャナブリかナムトックの周辺に泊まるのが望ましい。
 どちらがいいかと問われれば、昆虫記者としては虫の多いナムトックを勧める。しかし、それは「尋ねる相手を間違えた」ということになる。昆虫記者のプランには誰一人として賛同しないだろう。ナムトックの宿は、たいていひどく不便なのである。
 つまり、今回の泰緬鉄道の旅の行程は、常識を備えた普通の人々にとっては、全く参考にならないものなのである。
◆鉄道ファンの聖域を冒す
 現在の終着駅。タイのナムトック・サイヨークノイから先には、ミャンマーに隣接するサイヨーク国立公園がクウェーノイ川沿いに広がっている。すぐ隣、クウェーヤイ川の上流には、7段の滝で有名なエラワン国立公園。昆虫記者などと名乗るならば、虫が多い国立公園内だけを探索すればいいではないか。神聖な鉄道ファンの領域を冒すなど、もってのほかだという意見もあるだろう。
 しかし、目の前にある泰緬鉄道に乗らないというのも、なにかもったいない。大損した気分になる。
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 昆虫マニアには、たいてい鉄道マニアの血が多少なりとも流れているのである。財政上と年齢上の理由から最近車を手放した昆虫記者は、移動手段として、鉄道を多く利用しているから、当然、鉄道マニアの血が濃くなりつつあるのだ。したがって、泰緬鉄道が目の前を走っているのに、それを無視することなどできないのである。
 泰緬鉄道方面に出かけることになったのには、さらに伏線がある。推理小説には必ず、こういうさりげない伏線があるものだ。
 車ではなく列車を利用すると、列車内での暇つぶしに読書をするようになる。さらに、近く定年を迎え、定年後嘱託となるのを機に、窓際から、また別の窓際へ職場移動となり、とっくに忘れてしまった英語の翻訳作業をやることになったので、急遽英語の本なども読み始めたのだ。そして手にした一冊が「戦場にかける橋(THE BRIDGE ON THE RIVER KWAI)」だったのである。
 1冊の本がきっかけで、タイ・カンチャナブリ県に出かける男。そこで殺人事件に遭遇する。サスペンス物のドラマにありそうな筋書きではないか。
 色々と面倒な前振りをしたが、実際には、読書が一つの契機にはなったものの、虫撮りができて、有名な鉄道にも乗れる旅行先としてカンチャナブリが選ばれたという、至極単純なことなのである。別にサスペンス・ドラマ仕立てにする必要もないのだ。
◆未明のナムトック駅
 平日に運行されるのは3等席のみの通常列車だけだ。通常と言うからには、日本の山手線のように、次から次へと列車がやってくると思うかもしれないが、それは大間違いだ。1日2、3往復しかないのである。途中下車するにはかなりの勇気がいる。待てども、待てども次の列車は来ないのだ。綿密な計画が必要となる。ルーズな昆虫記者には、困難な課題だ。いつもの行きあたりばったり戦法は通用しない。
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 バンコクまでの直通は1日2往復しかない。途中駅までの往復を入れても3往復だ。非常に分かりやすい時刻表である。

 サイヨークのジャングルの中のホテルからナムトック駅までは、ホテルのソンテウ(乗合小型トラック)で30分ほど。ナムトック始発の一番列車は、列車午前5時20分発。あとは、午後0時50分発しか選択肢はない。余裕を持つには、午前5時20分発に乗る必要があり、とんでもない早起きを強いられることになった。
 ここで注意が必要な点が一つ。ナムトック線の平日の列車は、路線西端のナムトック・サイヨークノイ駅までは行かない。一つ手前のナムトック駅が始発、終着駅となるのだ。間違って、ナムトック・サイヨークノイ駅で列車を待っていたら、一日中駅で待ちぼうけを食らうことになる。
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 ナムトックの始発列車。外はまだ真っ暗だ。

 昆虫記者には関係ないが、土日祝日には、ちょっと高級な臨時観光列車が、バンコクからナムトック・サイヨークノイ駅までやってくるらしい。戦没者墓地のあるカンチャナブリやクウェー川鉄橋、サイヨークノイ滝を観光する時間も設けられているらしい。すべて「らしい」である。昆虫記の日程は日曜夜から金曜までなので、スケジュール的にこの列車には乗れないのである。たとえ、スケジュール的に可能であったとしても、昆虫と縁のない観光列車には乗らないのである。しかも料金が高いらしい。ナムトック線の普通列車なら、外国人料金はどこまで行ってもたったの100バーツだ。
 ホテルを出るのは、余裕をもって、午前4時半。めちゃめちゃ眠い。が、こういう早朝の時間帯は、虫探しには貴重なのだ。無駄にしてはならない。ホテルでソンテウを待っているわずかな時間に、フロントの照明の近くで、オオゾウムシを見つけた。虫撮りのためなら1分、1秒も無駄にしない。昆虫記者はさすがである。
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 早朝のフロント係はこの巨大ヤモリ「トッケイ」。蛾、蚊、ハエなど嫌な虫を掃除する働き者だ。

 ソンテウでまだ暗いナムトック駅に到着。駅で待っている乗客は、昆虫記者を含め3人しかいなかった。ライトを点灯した列車がホームに入ってくる。乗り込んだ車両は、昆虫記者が独り占めである。
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 この路線は。もともとは泰緬鉄道の一部分だが、今はミャンマーまでつながってはいない。ミャンマーまで乗って行けるなら最高と思っている鉄道ファンは多いだろう。昆虫ファンとしても、熱帯のジャングルの中をタイからミャンマーまで走り抜ける鉄道は夢である。途中駅はすべて、昆虫天国に違いないからだ。
 クウェー川鉄橋駅への到着予定時間は、午前7時12分。帰りの列車は鉄橋駅10時55分発に乗るつもりなので、3時間半以上の自由時間が鉄橋周辺で確保できる。
 ナムトックに12時20分に戻れるから、ナムトック駅からナムトック・サイヨークノイ駅までのんびり歩いて、サイヨークノイ滝で時間をつぶすこともできそうだ。
◆1時間程度の遅れは覚悟
 しかし、後で知ったことだが、列車でタイを旅行する際には、こうした綿密な計画は無駄になる可能性が高い。時刻表とにらめっこをして、ち密な計画を立てたとしても、タイの列車は1時間、2時間の遅れは当たり前なのである。遅れなければ列車にあらずと言わんがばかりだ。
 特にこのナムトック線は、遅れることで有名らしい。土日は観光客が多いため、観光客向けの列車もあり、名所の駅では長い停車時間を取るが、その時間がいい加減らしい。撮影スポットでは、とりわけゆっくりと走ったりするので、どんどん遅れる。しかも運行本数が少ないので、良く言えば、運行に融通が利き、運転手の自由裁量にゆだねられている範囲が広いのだろう。あまり時刻表にはとらわれないようだ。時刻表にうるさい日本の筋鉄にとっては、悪夢のような列車だ。
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 列車にはちゃんとトイレもついている。ボトルに水道の水をためて流すようだ。

 それでは、一体なんのための時刻表なのかと言うと、それは、時刻表に書かれた時間より早く出発することはないという意味の時刻表なのだ。それより遅く出発するのは当たり前なのである。
 日本的感覚でいると、30分、1時間と待たされると、頭に血が上って、「駅員を襲撃」なんてことになりかねない。怒りが爆発して、クウェー川鉄橋を、映画のようにプラスチック爆弾で爆破してやろうなんて、考えてはならない。第二次大戦中なら、橋を爆破してヒーローになれたが、今爆破すればテロリストだ。
 しかし、「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く。日本人は急ぎすぎなのである」なんて言っていると、全然物事がスケジュール通りに進まないのだ。ギリギリの予算、ギリギリの休暇日程の虫旅。日本に帰ったらすぐまた仕事。タイ時間に毒されてしまったら、もう日本時間には戻れない。
◆電車が15分しか遅れない。これは事件だ
 だが、ナムトック午前5時20分の始発列車は、乗客が数人しかいないこともあって、ほとんど遅れもなく、順調に走行していた。
 しかし、サスペンス・ドラマでは、こういう時に事件が起きるのである。バシッ。頬に激痛が走る。狙撃されたのか。走る列車に向けて、銃を発射するとは、ゴルゴ13並みの腕前だ。
 だが、頬の傷はたいしたものではない。銃弾ではなく、木の枝が窓から入り込んだのだった。
 普通列車は、冷房がないので、大きな窓が開け放しになっている。列車と森の間には、ほとんど空間がないから、前夜のうちに線路側に倒れ掛かった草木の枝が、窓枠をバシン、バシンとたたいていくのだ。特に始発列車は、その被害を受けやすいのだろう。窓から顔を出すのは極めて危険だ。
もちろん、昆虫記者は顔を出していたわけではない。窓枠から5センチは離れていたと思う。それでも、枝が顔に当たるのである。
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 タムクラセの木造橋。日本では旧名のアルヒル桟道橋と呼ばれることが多い。

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 タムクラセ橋付近は、崖すれすれを列車が走る。崖側の窓からは絶対に顔を出してはいけない。こういう美しい風景に見とれていると、突き出た枝で負傷することが多い。

 そして、列車は無事クウェー川鉄橋を渡り、たったの15分遅れで、クウェーリバー・ブリッジ(クウェー川鉄橋)駅に到着した。これは事件だ。タイ国鉄の信頼回復だ。まだ午前7時半。この時間だと、観光客はほとんどいない。

葛西のカニを食べるハジロカイツブリ

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 葛西臨海公園の海辺にハジロカイツブリ(たぶん)が数羽来ています。潜りの得意なカイツブリ。
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 何を食べているのか観察していると、何と贅沢なことに、カニを食べていました。獲物は、ワタリガニのような、中型のカニ。
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 何度か突っついて、食べやすくした後、ゴックン。
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 でもあまり水がきれいではない葛西の海岸。健康上は大丈夫なのか、ちょっと心配になりますね。

 コサギも岩場の生き物を狙っているようですが、なかなか獲物にありつけないようです。
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 ここの淡水の池は、圧倒的に多いのがヒドリガモですが、おかしな顔のハシビロガモが毎年やってくるのが、プラスポイントですね。
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葛西のオオツノカメムシ、お目覚め

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 たぶん日本一立派な角を持つカメムシのオオツノカメムシ。東京では普段なかなか見かける機会がないオオツノカメムシですが、冬は越冬のため海辺の公園にやってくることがあります。

 葛西臨海公園もそんな貴重な公園の一つ。と言っても、これまでに見かけたのは、今回を含めて2回だけですが。でも老眼、乱視の虫記者が見つけられるのですから、きっとかなりの数のオオツノカメムシが毎年ここで越冬しているのでしょう。
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 今回はなぜか、竹林にいました。最近春のような日もあったので、越冬から目覚めてしまったようです。

 正面顔を撮るため、ちょっと移動させました。右側はすぐ海です。
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 機動戦士系の装束で、なかなかに格好いいカメムシです。
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 ムラサキシジミも、そろそろお目覚めの季節。♀のようですね。この時期まで頑張れば、春の繁殖シーズンまで生き残れるでしょう。
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 ウラギンシジミもずいぶん目立つ場所にいたので、最近お目覚めして、隠れ家から出てきたのでしょう。 
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  こんな細い体で、無防備な場所で、よく越冬できるものだと感心するのが、オナガグモ。
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 どこにいるのか、良くわかりませんよね。斜めに突き刺さった緑の松葉のようなのがオナガグモです。上から見ると、若干クモらしく見えますね。
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サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑥

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◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑥
◆3匹の野良犬との対決
 泰緬鉄道の列車が通り過ぎた後のクウェー川鉄橋駅。線路のレールの間には猫がねそべっていた。次の列車が来るまで、何時間もあることを知っているのだ。のんびりしたものだ。
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 物欲しそうに昆虫記者を見つめるネコ

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 何ももらえないと分かると、ふてくされて寝そべってしまった。

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 猫の獲物にちょうど良さそうな可愛い鳩

 そして、橋の上を歩いていたのは、観光客ではなく、野良犬が3匹だけ。これはこれで、なかなか撮れない貴重な写真だ。朝5時過ぎにナムトック始発に乗ったからこそ、見られた光景である。と言っても、そんな光景は、だれも見なくないかもしれない。これは「世界猫歩き」ではないし、「世界犬歩き」でもない。「早く虫を出せ」という激しい批判の声が聞こえてくる。いや、空耳だった。どこからもそんな声は聞こえてこない。
 とりあえず、3匹の犬の後をついて、ゆっくりと橋の上を進む昆虫記者。対岸の緑生い茂る河川敷には、いろいろな蝶が飛び交っている。早く行って写真を撮りたい。だが、足は前に進まない。なぜ急がないのか。それはもちろん、犬が怖いからである。野良犬は大の苦手なのだ。
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 「振り向かないで」と願っていたが振り向かれてしまった。

 たかが野良犬と思う人もいるだろうが、歯をむき出して襲ってきたらどうする。ここは逃げ場のない橋の上だ。噛みつかれたらどうする。鉄橋から川に飛び込むしかないではないか。犬たちの機嫌を損ねないよう、まるで犬の存在に気付いていないかのように視線を空に向けながら、のんびり歩く。軽快なリズムのクワイ川マーチを鼻歌で奏でながら。

◆絶体絶命のピンチ
 クワイ川マーチと言えば、言わずと知れた名作映画「戦場にかける橋」のテーマ音楽である。クウェー川鉄橋建設のため捕虜として過酷な労働を強いられた英国兵士らの口笛が印象に残っている人も多いだろう。だが、舌の短い昆虫記者は悲しいことに口笛が吹けないので「ピピッ、ピピピ、ピッピッピー」とはならないのである。鼻歌では「フフ、フフフ、フフフーン」と気の抜けた音になってしまう。
 しかし殺人野良犬は容赦しない。しかも3匹。彼らが振り返り、おかしな日よけ帽子をかぶって変な鼻歌を歌う男にほえかかってくる。おびえ切って防護柵にしがみ付く男。もはや絶体絶命だ。「ギャー、助けてくれ」。
 しかし、野良犬たちは突然興味を失い、3匹連れ立って対岸へと足早に去っていった。昆虫記者は、防護柵からゆっくりと手を放し、醜態の現場を誰も目撃していないことを確認すると、再び鼻歌を歌いながら、蝶の待つ対岸へと向かったのであった。
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 泰緬鉄道の別名は「デス・レールウエー(死の鉄道)」である。戦争の犠牲者への鎮魂の祈りを忘れ、虫撮りにうつつを抜かしていると、罰が当たって、とんでもない事件に巻き込まれかねないことを野良犬たちは教えてくれたのだった。

◆線路上を歩ける鉄橋
 クウェー川鉄橋駅の周辺は、レストランや土産物屋で賑わう。ここは一大観光地なのである。観光資源は「戦場にかける橋」で有名なクウェー川鉄橋と、その下を緩やかに流れるクウェーヤイ川である。
 映画では、爆破されて木っ端みじんになったはずの橋は、今も立派にそびえ立っている。空爆で一部が破壊されたが、すぐに再建されたようだ。そして、この橋は、列車に乗って渡るだけでなく、歩いても渡れるのである。
 列車の鉄橋の上を自由に歩けるというのがすごい。2本のレールの間を歩けるのである。日本では考えられないことだ。なにせ、1日に3往復しかない列車だから、列車が通る時以外は、歩道橋になるのだ。途中には避難場所もあるから、列車が来ても大丈夫。と言うか、列車が来たら超ラッキーということだ。だから列車が来る時間に合わせて、橋を渡る人もいる。
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 列車が来た時に鉄橋上の観光客が避難するスペースが設けられている。

 日本の鉄ちゃんたちにとっては、夢のようなことだ。日本では、関係者以外が、踏切以外で線路の敷地内に入ることは犯罪になりかねないのだ。鉄道営業法違反になる。「無断で線路内に立ち入るべからず」。最近も芸能人が線路に立ち入って写真を撮り、ブログにアップしたとかで、書類送検される事件があった。線路内に立ち入るマナー違反の撮り鉄が問題になることも多い。
 だが、泰緬鉄道では、線路内を歩くことが観光の目玉なのである。泰緬鉄道をめぐる団体ツアーでは、たいていクウェー川鉄橋や、タムクラセ(アルヒル)桟道橋の線路上を歩く時間が組み込まれている。線路わきに設けられた避難場所から、通り過ぎる列車を撮影し、乗客に手を振るのが、旅のハイライトなのである。何と素晴らしい鉄道なのだ。
 鉄橋の防護柵のうち、弧を描くアーチ状のものは戦時中のままで、直線的な防護柵部分は戦後に修復されたものらしい。直線的な柵には、yokogawa brdgeの文字。これも日本製ということだ。
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◆対岸の河川敷は昆虫環境良好
 それで、虫撮りはどうなったのか。もちろん、忘れてはいない。
鉄道ファンに多少すり寄っても、魂までは売り渡しはしないのだ。鉄橋駅から橋を渡った先の河川敷には、いい感じの緑が広がっている。森の間に林道が幾つも通り、草原も点在している。これは、かなり良い昆虫環境だ。
 そして、なかなか良い虫たちが、そこで待ち構えていた。まずはハレギチョウ。いつ見ても、美しい。戦場に散った兵士たち、過酷な労働で倒れた連合軍捕虜たちも、このチョウを眺めて、悲惨な戦争を一瞬だけ忘れることができたかもしれない。
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 日本ではハレギチョウ、英語ではレースウィング。晴れ着のような色合いと、レース編みのような周囲のギザギザ模様が特徴。

 スジグロカバマダラも多い。スジグロは東南アジアのどこでもよく見かけるのだが、黒い筋のない、ただのカバマダラの方はなぜか、これまでほとんど見たことがなく、写真は一枚も撮れていなかった。そのカバマダラもここには、何匹か飛んでいた。どちらも体内に毒をため込んでいるという。
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◆ツマグロヒョウモン♀の擬態のお手本
 これに擬態して、身を守っていると言われているのが、東京周辺でも繁栄を極めているツマグロヒョウモンのメスだ。確かによく似ている。どちらかと言えば、スジグロでない、ただのカバマダラの方に近い模様だ。だが、カバマダラがいない東京でもツマグロヒョウモンは急増しているから、擬態説もちょっと怪しくなってくる。擬態なんかしなくても、十分繁栄していけるのではないか。
 ツマグロの都会での繁栄は、パンジーなどスミレ科の園芸種を幼虫が食べまくっているためとも言われる。つまり、都会への適応能力が高かったのだ。南国の美しい蝶への擬態は、虫捕り少年に襲われる危険を高めるだけで、東京では逆効果ではないかと思われる。
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左がツマグロヒョウモン♀、右がカバマダラ。確かによく似ている。

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左がツマグロヒョウモン♀、右がカバマダラ。裏側はツマグロの方がはるかに美しい。

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 ちなみにツマグロヒョウモンの♂は、普通のヒョウモンチョウの模様で、カバマダラには全く似ていない

 ドクチョウの仲間のヘリグロホソチョウもゆったりと飛んでいる。こいつらも、毒を体にため込んでいるので、ゆったりと飛ぶのだ。食べたらまずいよ、と広告しながら、飛んでいるのである。
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 見るからにドクチョウの仲間といういで立ちのヘリグロホソチョウ

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◆上空から昆虫記者をバカにするキシタアゲハ
 川が近いのでトンボも多い。以前オーストラリアで出会ったスキバチョウトンボもいた。羽の付け根の黄色の模様がおしゃれである。
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 真下から見上げたスキバチョウトンボ。斑紋の部分だけ見ると、小さな蝶に見える。

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 そして、ワシントン条約の保護対象の大きなチョウ、キシタアゲハがたくさん飛んでいる。しかし、とんでもない高い木の上をかすめていくのだ。全く写真にならない。やつは、昆虫記者が列車に乗っている時も、せせら笑うかのように、車窓すれすれを飛んでいた。今回の旅では、キシタアゲハには馬鹿にされ続けた。いつか徹底的に報復してやらねばならない。
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 昆虫記者をあざ笑うように、はるか上空を旋回するキシタアゲハ

◆地雷のように仕掛けられた牛フン
 虫好きが上を向いて、チョウの姿を追っていると、足元の危険に気付かず、痛手を負うことがよくある。穴に落ちて足をくじいたり、石につまずいたりはしょっちゅうだ。そして、今回待ち受けていた重大な危険は牛のフンである。大きいものは直径30センチはあると思われる。
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 こんな素敵な河川敷の風景の中に、危険が潜んでいる。

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 草原の中に絶妙に配置された牛フン。

  この河川敷には、水分たっぷりでベチョベチョの平べったい牛フンが、あちこちに地雷のように仕掛けてあったのだ。一つめ、二つめは難なくかわした。そして三つめが危なかった。ぎりぎりのところで、脳内の衝突回避機能が作動し、円形のフンの外周部分をわずかに踏みしめただけで、大事には至らなかった。
 それでも、足裏の感触はぐんにゃりと、気持ち悪い。もし直径30センチの中心を踏み抜いていたらと考えると、恐ろしい。そこで、つるりと滑って、尻もちをついたりしたら、大惨事だ。帰りの列車に乗ったら、周囲から臭いもの扱いされるだろう。一体誰が、こんなところで牛を放牧しているんだ。訴えてやる。
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 ベニモンアゲハはジャコウアゲハに近い仲間なので、赤い胴体が毒々しく美しい。

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 たぶんメスシロキチョウ。こういつ草原の蝶に気を取られていると、牛糞の地雷に気付かない。

 いつまでも高い樹上を見上げ、キシタが下におりてくるのを待っていたが、だめだった。そして、あっという間に帰りの列車の時間に。再び橋を渡って、駅へ向かう。さすがに昼近くなったので、観光客が多い。橋の上は、繁華街の歩道橋のようになった。もはや野良犬が渡れる場所ではない。
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 観光客でごった返す昼時のクウェー川鉄橋

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 駅で列車を待つ観光客

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 20分遅れで列車がやってきた。

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 通り過ぎる列車に手を振る幼児。将来の強力鉄ちゃんの素質がありそうだ。

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 鉄橋上の退避場所で、通り過ぎる列車を撮る観光客

 駅で帰りの切符を買う。100バーツだ。どうせ列車は大幅に遅れるのだろうと思っていたら、たったの20分遅れでやってきた。すばらしい。タイ国鉄もきっと、心を入れ替えたのだろう。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑦

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サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑦
◆戦場にかける橋
 ナムトックへの帰りの列車では、「戦場にかける橋」の英語版ペーバーバックを読む。原作はフランス語だが、フランス語は読めないのだ。それなら日本語にすればいいのに、なぜか格好つけて英語である。
 泰緬鉄道で「戦場にかける橋」を読む昆虫記者。格好いいではないか。なかなか絵になるぞ。誰か気づいてくれないかと周囲を見回すが、誰一人気付く者はいない。だんだん恥ずかしくなってくる。インスタ映えを狙って同じことを考えるやつは多そうだし、あまりにも、薄っぺらな観光客的ではないか。
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 アカデミー作品賞に輝いたデビッド・リーン監督の戦場にかける橋の映画(英米合作)を観た人は多いだろうが、あの映画が撮影されたのは、タイではなくて、スリランカである。スリランカの観光当局にとってはウハウハであるが、タイにとっては、残念。せめてクウェー川の上流の霧に沈むジャングルで撮影したシーンでも含まれていればと思うのだが、まあ映画なんてものは、こんなものだ。ストーリー自体、フィクションだから仕方がない。
 映画の原題は「ザ・ブリッジ・オン・ザ・リバー・クワイ」であり、クワイ川(タイ語の発音ではクウェー川)には、日本軍がかけたその橋が今も架かっている。主題曲のクワイ川マーチとともに、誰もが知る橋である。それだけでも、カンチャナブリの観光には絶大な貢献を果たしている。
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 鉄橋の下をのんびり泳ぐシナガチョウ

 クワイ川マーチは、捕虜たちの口笛が印象的だったが、日本の子供たちの間で流行したというサル・ゴリラ・チンパンジーの替え歌も印象的だ。サル・ゴリラと言えば、戦場にかける橋の原作者であるフランスの小説家、ピエール・ブールは、何と、「猿の惑星(プラネット・オブ・ジ・エイプス)の原作者でもある。そのどちらもが、仏領インドシナで第二次大戦中に日本軍の捕虜となり、収容所生活をおくった体験がもとになっているという。戦場にかける橋と、猿の惑星は、発想の原点が同じだったというのは、意外な発見だ。猿の惑星では、日本帝国軍をサル・ゴリラ・チンパンジーに置き換えたというわけだ。
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 線路脇の電線にはアオショウビンの姿も

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 河川敷のホオジロムクドリ

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 トンボを捕まえた名前不明のありきたりの野鳥 

◆川の名前も変えてしまった映画の影響力
 映画の影響の大きさは、川の名前にも反映されている。戦場にかける橋の下を流れているのは、もともとはメークローン川であり、少し下流で合流する支流こそがクウェー川だった。映画が有名になり過ぎたため、鉄橋が架かっている川はクウェーヤイ(大クウェー)川に改名され、クウェー川はクウェーノイ(小クウェー)川に格下げされたのだ。もともとの名を奪われた旧クウェー川にとっては悲劇だ。二つの川が合流した先はメークローン川のままである。
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 クウェーヤイ川の風景

 ナムトックへの帰りの列車は、進行方向に向かって左側の席に座らなければならない。でないと、クウェーノイ川の景色や、断崖に張り付くように建設されたタムクラセーの木造橋(日本では依然ここにあったアルヒル駅の名からアルヒルarrow hill桟道橋と呼ばれることが多いが、英語ではこの名はほとんど見かけない)を列車が渡る様子を撮ることができない。戦時中に捕虜らの労働力を使って作られたものだという。切り立った崖の側面を這うように作られた鉄道。今も使われているというのが信じられない。当時は過酷な作業だったに違いない。列車は速度を落とすので、写真は撮りやすい。
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◆次から次へとやってくる物売り
 「列車旅と虫旅。この二つを組み合わせれば、最強の旅になる」。などという話は、聞いたことがない。たいていは、列車旅と取り合わせがいいのは、グルメだろう。そういうテレビ番組は数えきれないくらいある。つまり、一般日本人は、列車とグルメなのである。虫は余計物なのだ。やはり、列車にはグルメである。そして、この列車では、社内販売が盛んだ。弁当、果物、飲み物など、色々と抱えた売り子さんが次々とやってくる。これなら、簡単に低予算のグルメ旅番組が作れる。
 日本の社内販売のように決まった制服を着て、ワゴンを押してくるわけではない。どう見ても普段着だし、手にしているかごもスーパーの買い物かごのようなものだ。「絶対制服がいい、制服じゃないと嫌だ」という、制服好きには申し訳ないが、こういう、一般商人的な物売りもいいものだ。タイ人の普段の生活を垣間見た気分になれる。
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 本当は虫の居そうな駅ごとに下車したいのだが、なにせ1日に3往復しかない列車である。下りてしまったら次がない。
 それに、あまり乗り降りを繰り返していると、忘れ物をする危険が増す。なにしろ、昆虫記者は忘れ物キングである。何度も財布をなくしている。傘をなくすなんて、日常茶飯事だ。帽子、カバンも。だから、財布にはチェーンを付けて、常にズボンと一体化させるようになった。持ち物も、できる限り、体と接続する。

◆スタンドバイミー的虫撮り
 列車は昼すぎにナムトック駅に到着した。平日の列車はここが終点だ。線路は、観光名所のサイヨークノイ滝が近くにある次のナムトックサイヨークノイ駅まで続いているが、そこまで行くのは土日の特別列車だけである。今日は平日。虫を撮りながら、線路を1駅分歩いても、安全上何の問題もないはずである。豊かな自然の中を走る線路は、森の散策路と同じだ。必ず虫がいる。鉄道ファンの血が流れる虫好きにとって、虫と線路は最高の組み合わせではないか。
 線路上は実にのどかだ。西洋人の同好の士のカップルが1組、後からやってきて、昆虫記者を追い抜いていった。たいていの観光客は、「ソンテウ」と呼ばれる小型トラックを改造した乗合タクシーでナムトック駅から滝に向かうが、わずか1キロ余りの距離。歩いて行こうという人もいるのだ。
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 この先は平日は列車が通らないので、歩けないことはないが、お勧めはしない

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  「滝に行くのですか」と尋ねると「これが一番の近道だから」と笑って答えるカップル。何だかとても楽しそうだ。線路沿いに冒険の旅に出る。映画「スタンド・バイ・ミー」の世界である。彼女と一緒にスタンドバイミーなんて、いいなー、うらやましいなー「ソー、ダーリン、ダーリン。スタンド、バイ、ミー」と歌ってみても、昆虫記者の隣にダーリンはいない。枕木の間の草を踏みしめ、虫を撮りつつ、とぼとぼと歩く。「昆虫記者のダーリンは虫だけで十分だ」と強がりながら。
 しかし、ここは、クウェー川鉄橋とは違って、人が歩くことを想定して作られた線路ではない。線路上を歩く者にとって想定外の危険個所もあった。小さな川の上を渡る鉄橋のようなところがあったのだ。線路わきの柵すらなく、ただ、線路が川の上を跨いている。枕木と枕木の間は、何もない。枕木の隙間に落ちたら、そのまま谷底だ。
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 忠告を無視して、線路上を歩くと、こういう危険カ所もある。

 さして深い谷ではないが、落ちたら骨折ぐらいはするだろう。先に行ったカップルがもしや落ちていたりしないか、一応チェックする。映画スタンドバイミーとは違って、死体はころがっていなかった。
 ちょっと怖い道ではあったが、ナムトック・サイヨークまでの近道であることは間違いない。あっという間に到着する。それに、結構虫の姿も多かった。フタオチョウの仲間もいたし、以前カオヤイで出会ったことのある、ピンク地に水玉のハムシもいた。想定外の収穫である。
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 たぶんチビフタオチョウ

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 線路上のハイイロタテハモドキ

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 テントウムシ似のゴミムシダマシの仲間(たぶん)

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 ピンクと黒の水玉模様のハムシ。

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 指乗せしてみた。かなり大型のハムシだ。 


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 イナズマチョウの仲間

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 名前不明のハムシ

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 線路上を歩いていたカメムシ。竹でよく見かけたので、竹が主食かも。

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 カバタテハ

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 カバマダラも線路脇にいた

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 ベニボタルの仲間

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 ヤスデとアリが線路上で喧嘩。列車が来ないので、のどかなシーンが展開される。

 だが、他の人にこの道は決して勧めない。絶対行くなとここに書いておく。だから、万が一、鉄橋から落ちて大けがをする人が出たとしても、絶対に昆虫記者の責任ではない。

 そして、サイヨークノイ滝があるナムトック・サイヨークノイ駅に着いた。
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 ナムトック・サイヨークノイ駅が見えてきた。

 観光客のほとんど、99%は、ナムトック駅で待っているソンテウに乗って、滝までやってくるが、歩いても大したことはないだろう。せいぜい1~2キロだ。もちろん、線路上のスタンドバイミー・コースは危険だから禁止である。ソンテウ代を節約したい人は、正規の道を歩こう。どうしても線路上で虫探しをしたいという人は、ナムトック・サイヨークノイ駅側から、鉄橋までの安全な区間だけを歩くのが良い。

 この滝は写真写りはいいが、幹線道路に面した公園のようになっていて、極めて大衆的である。写真で見る限りでは、まるでジャングルの中に突然現れる幻の滝のようだが、そんなとてつもない期待を抱いてここを訪れると、かなりがっかりするかもしれない。特に乾季にここを訪れたりすると、岩壁にチョロチョロと水が滴るような状態になるらしい。滝が目当てなら、雨季に入る5月以降に来た方がいい。
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 サイヨークノイ滝周辺にもスソビキアゲハがいる。

 サイヨークノイ滝には、ソンテウがたくさん停車しているので、1台つかまえてホテルに戻る。ホテルまでの距離は15キロほど。料金は500バーツだった。ちょっと高いような気もしたが、ホテルで確認したら、適正だという。ホテルからのソンテウも同じ値段だった。

超充実のシンガポール虫旅から帰国

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 先週末に超充実のシンガポール虫旅から戻ってきました。そしたら何と、ヤフーのブログのサービス終了のお知らせが入っているではないですか。そこでブログ移転に備えて、はてなブログでも記事を書いてみることに。
 今後は「はてな」中心に書くことになると思います。そうでないと、移転も面倒ですからね。どうやって引っ越しするのか、まだ全然わかりません。

 帰国後にベランダの植物(ほとんどが虫の餌用)を眺めると、笹の葉の裏側に何やら怪しい人影、もとい、虫影。だいたいベランダの植木鉢にただの笹を植えていること自体怪しい。怪しさ2倍ですね。
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笹の葉裏の怪しい虫影

 表側を見ると「オオ!」。厳しい冬を乗り切ったヒカゲチョウの幼虫の凛々しい姿が。
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 猫顔の可愛いやつです。
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キュートな猫顔

 特にこいつは、体側に斑紋があるおしゃれな逸品。これまでの経験では、斑紋のあるのは5匹か、10匹に1匹ぐらいの少数派です。まだかすかな白い点ぐらいの斑紋ですね。

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 ベランダの植木鉢にただの笹。これは怪しい家ですね。

 数日後に見ると、斑紋が黄色くなって、茶色のアクセントも付き始めていました。今後の成長が楽しみです。でも蛹化する際に遠い旅に出て、行方不明になることが多いので、その前には保護してやらないといけません。世話の焼けるやつです。
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 オシャレな斑紋付きのヒカゲチョウ幼虫

 シンガポール土産を1匹。東南アジアの至る所にいる種類のハゴロモですが、なかなかの美貌。小さくて気付かれにくい存在ですが、お気付きの際には是非記念写真を撮ってみて下さい。
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 普通のハゴロモもいかにも南国風ですね。

サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑧

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サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑧

ヤフーブログ閉鎖予定を受け、移転予定のはてなブログから転載しています。

タイの虫 thai insects
◎サイヨーク、エラワン、泰緬鉄道の虫旅⑧
6月20日水曜
◆地獄の炎に焼かれる昆虫記者
 ナムトック・サイヨークから先も、かつての泰緬鉄道は続いていた。しかし今はここで線路が途絶えている。
 ジャングルの中に消えてしまった鉄道。かつて線路があった深いジャングルの中を、秘境の虫を求めてミャンマーまで歩いて行ってこそ、真の冒険であろう。だが、昆虫記者は探検家でも冒険家でもないので、そのような無謀な試みはしない。しかし、ちょっとだけそうした雰囲気を味わうことのできる、とっておきの場所があるのだ。
 それはヘルファイアパス(地獄の炎の道)である。この恐ろしい名は、戦時中の捕虜たちの苦難の歴史を物語っている。泰緬鉄道の歴史を巡る旅ならば、ここを外すわけにはいかない。
 「いつの間に、虫撮り旅が歴史の旅になったのか」と、いぶかしがる向きもあるだろうが、メインはもちろん虫である。ヘルファイアパスは、かつて捕虜として泰緬鉄道の建設に従事したオーストラリア人が保護を提案し、同国政府が資金を拠出して整備したという。このため、今も慰霊の催しに多くの豪州人が訪れており、切り通しの岩壁には豪州国旗や同国人戦没者の写真が多く見られる。つまり、ヘルファイアパスは鎮魂のための道なのである。しかし、ジャングルの中を通る道は、虫の通り道でもある。昆虫記者は、鎮魂の思いを胸に抱きながら虫を探すのである。
 それに、ヘルファイアパスは、宿から一番近い観光地なのである。前日は早起きで疲れた。だから今日はのんびり朝食を食べて、近場観光だ。
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ヘルファイアパスの切通
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 ヘルファイアパス(コンユ・カッティング)は、博物館から4キロほどが公開されている。岩山の中に切通しを作るという、難工事。夜通しの作業で、かがり火が地獄の炎のようだったことから、ヘルファイアと呼ばれたようだ。
 ただ虫を探して歩くだけでも、熱帯のジャングルの蒸し暑さは耐え難い。そんな場所で、過酷な労働を強いられた捕虜たちの苦しみはどれほどだっただろうか。この道がはるか、ミャンマーへと続いていたのだ。42年の6,7月にタイ、ビルマの両端から建設を開始し、1943年10月に完成したという。5年、6年はかかると言われた建設を1年ちょっとで完成させたのだから、すさまじい過重労働だったのだろう。この鉄道はミャンマーまで続いていたのだ。ジャングルの中を。
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切通しの岩壁にいたコノハワモンの仲間。
 枕木一本、死者一人。ジャングルに残された枕木が、重みをもつ。連合軍兵士1万3000人、アジアの労働者8万人が、鉄道建設中に死亡したという。英、オランダ、オーストラリ兵の捕虜が多く犠牲になっている。足元を見ると、黒い大型のアリの行列。自らの体と同じぐらいの大きさの繭を運んでいる。ここで地獄のような作業を強いられた戦争捕虜の姿とダブって見える。
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 現在も線路が日常的に使われ、周辺に町や農地の広がるナムトック駅からクウェー川鉄橋までの区間と違い、ヘルファイアパスは樹林の中に枕木の痕跡が残るだけだ。それだけに、なおさら戦時を思い起こさせる空気が満ちている。
戦場にかける橋はフィクションであって、ウィリアム・ホールデンのようなヒーローが大活躍する物語は、実際にはなかったが、捕虜が置かれた過酷な環境は、映画以上のものがあっただろう。死者の数は、戦時中の日本の軍国主義の中に潜んでいた想像を絶する狂気を感じさせる。クウェー川鉄橋のようなメジャーな観光地ではないので、昼時でも人は少ない。よく整備された博物館周辺500メートル範囲の散策路より先は、昆虫記者以外誰も歩いていなかった。戦争の悲惨さ、平和のありがたみを噛みしめるには、この静けさがちょうどいい。
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落ちた果実にレクタリクイナズマが数匹集まっていた。
 クウェーノイ谷を見下ろすビューポイントでは、落ちた果実に蝶が集まっている。薄曇りの谷に、さわやかな風が吹き抜ける。黄色地に黒の水玉模様の小さなハムシが目の前の草に止まった。驚かさないよう、そっと近づいて写真を撮る。
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ここにもいたヨロイバエの仲間。小楯板が大きな甲羅のように発達して背中を覆ってしまった不思議な姿のハエだ。
  アジアの戦跡を巡る時、日本人は肩身が狭い。ジャングルの中の切通しには、ほかに人の姿はなく、静かだ。虫の音ぐらいしか聞こえない。虫撮りは馬鹿馬鹿しい趣味かもしれない。戦争はもっと馬鹿馬鹿しい。虫撮りとか、虫捕りとかやってる人々は、大日本帝国の非国民。精神的害悪を垂れ流し、戦闘意欲を低下させ、愛国精神を蝕む退廃的やからとみなされてしまうだろう。昆虫図鑑なんて、禁書にされてしまうかもしれない。もちろん昆虫記者のブログだとか、ツイッターだとかは即刻削除だ。
 「いやだー、そんな時代は嫌だー。この平和なカンチャナブリ、平和なサイヨーク、平和な鉄道よ、永遠なれ。
 戦争の悲惨な歴史。繰り返してはならない。想像を絶する数の戦争捕虜、現地で徴用した労働者の命が、鉄道建設で失われた。だが、今は、平和な風景が広がる。
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真っ黒な蝶。たぶんチビコムラサキのオス。メスはコムラサキ風なのにオスはこんな喪服のような姿らしい。
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ジャノメタテハモドキ。地味だが、前出のチビコムラサキよりはましだ。
 何一つ世の中の役に立たない虫撮りではあるが、害も成さないという点で、平和的である。タイの虫、サイヨークの虫、そして戦跡のヘルファイアパスの虫を撮る。そして、いい写真であれば、もしかして誰かが「タイに行ってみたい。泰緬鉄道で旅して、なおかつ虫を見たい」などと思ってくれて、タイの観光業の発展に寄与してくれれば、非常に嬉しい限りだ。
 博物館がただで提供している説明資料(なんと日本語版もある)を手にして、虫撮りに励む。戦争の悲劇を噛みしめながら、虫を撮る。しかし、あまり暑いと、時々資料のパンフをうちわ代わりにして、顔をあおいだりする。なんと不謹慎な。そんなやつは、地獄の炎に焼かれて、恐ろしい末路を迎えるだろう。
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ヘルファイアパスのパンフレット。日本語版もある。暑い日はウチワの代わりにもなる。
 そしてやはり、地獄はやってきた。炎ではなく、豪雨だ。血の池地獄、水攻め地獄がやってきたのだ。ずぶ濡れになり、ぬかるみにはまり、最後は鉄砲水に流されるのだろうか。こんな慰霊のための場所に来てまで、虫撮りをしていたのだから自業自得である。
 しかし、ここでも昆虫記者の悪運が発揮される。雨が降り出したのは、3キロほど散策路を進んで、2キロほど戻ってきた時だったのだ。ポツリ、ポツリと降り出した雨が豪雨に変わったのは、入口近くのコーヒーショップに差し掛かったところだった。
 
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豪雨が屋根をたたく。
 難なくコーヒーショップに逃げ込み、屋根を激しくたたく雨音を聞き、ひさしから流れ落ちる白い筋を眺めながら、優雅にアイスカフェオレを飲み、ヘルファイアパス訪問の感想をメモ帳に書き始めたのであった。「虫撮りなんてものは、とてつもなく平和な場所、平和な時代でなければ、存在を許されない道楽である。そんな道楽が許される今を大切にしなければならない。虫撮りは、世界平和の象徴なのだ」。実に身勝手な感想である。
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